こんにちは。海猫沢です。
前回から始まった悩み相談コーナーですが、いろいろなお悩みありがとうございます。
ぼくも常に悩んでいるのでみんなの悩みは他人事だと思えません。機会があればサシで話がしたいですね。
というところで今回の悩みですが、ちょっと長くなりそうなので急いで本題にはいります。
紫津夕輝さんとサナミさんの悩みは、
長編を書きたい。
もっと文字数を増やしたい。
という二点ですが、この悩み、むちゃくちゃわかります。
ぼくも高校生の時に壮大なファンタジーとかを空想していて、いざ書き出してみるとプロローグとかやたら壮大なのにぜんぜん続かなくて3ページくらいで終わった経験があります。そのあと、小説の新人賞に応募しようとしたんですよ。そうすると、だいたい新人賞って400字詰め原稿用紙300枚くらい必要じゃないですか。ぜんぜん書けませんよね。
だから、最初のころは掌編小説——5枚くらいのコンテストに送ったりしてました。そこから次に30、100、300と伸ばしていった記憶があります。
ちなみにネットは文字数換算で数える人が多いですが、なぜか出版関係は400字詰め原稿用紙換算です。
掌編 2千字=5枚程度
短編 5千字=12〜20枚前後
短編 1万字=25〜35枚前後
中編 4万字=100〜150枚前後
長編 8万字=200〜300枚前後
というのが目安でしょうか。
単純に文字数を増やす技術はあります。調べればいっぱいでてきますが、ひとまず基本的な話をしましょう。
ほとんどの小説は大雑把にわけると2つの文章で出来ています。すなわち「会話」とそれ以外の「地の文」です。
文字数を増やしたいならこの両方を増やせばいいわけですが、地の文の描写を濃くするほうが全体のバランスが崩れなくていいと思います。
地の文の情景描写の基本は、
カメラ位置(対象物に寄ったり引いたり)+五感(香り、味、感触、色、音)+α(記憶とか独白とか、あるいは風景にまつわるエピソード)
で書くことです。例えば、
という文章を長くしてみましょう。
良し悪しは置いといて、今いる喫茶店で頼んだレモネードの描写だけで20字ちょいが600字ちょいになりました。30倍です。
細部のディティールを細かくして解像度の高い文章を書けば必然的に文字は増えますし、なんとなく小説っぽくなっていきます。
この方向で描写したいなら、海外文学などを参考にすると良いと思います(オススメはスティーヴン・ミルハウザーの短編)。
紫津夕輝さんの作品の冒頭、
という文章も、この方法で詳しく描写をすることが可能です。
というわけで技術はわかった——でも、なんかもやもやしませんか?
ここで一度、文字数が足りなくなる原因について考えてみましょう。
まずは「文字数が必要である」という大前提があるんですよね? この前提が出てくるということは、長編を書きたい、つまり長い小説を書いてみたいということです。もっと具体的に言うと、「壮大なスケールで魅力的キャラクターがいっぱいでてきて奇想天外な事件がいっぱい起きる重厚な小説を書きたい!」これが目的だと思うのです。あるいは、「あまり事件は起こらないけれど静かで美しくてなんだか心地良い世界が書きたい」かも知れません。
とにかく、決して「ただ文字数が多いだけの小説を書きたい」ということではないはずです。
つまり、長く書くというのは、あなたの長編を魅力的にするための「手段」にすぎないのです。長く書くことが「目的」になってはいけません。
ところが、書き終わったものが短い場合、なぜか「これをもう少し長くしなくては」と、長く書くことが「手段」ではなく「目的」にすり替わってしまいがちです。
確かに原稿の加筆修正は大事です。しかしそれは必要最低限でいいのです。作品は生き物であり、その作品自体の適切な枚数というものが存在します。「作品が面白くなる/良くなる」方向に伸ばす、という目的だけは忘れてはいけません。
ぼくは過去に150枚の中編を350枚くらいの長編にしたことがありますが、その場合、根本的な設計の見直しが必要でした。正直、今ならイチから書き直すだろうなと思います。
まとめるとこういうことです。
・作品ごとに最適な枚数が存在します。
・本当にその作品にとって、その文字数は必要でしょうか?
・目的と手段が逆転してませんか?
・むしろ短くしたほうがいいのでは?
まずこれを自問自答しましょう。
・「目的」と「手段」をまちがえない(長くすることが目的ではなく。良い作品を書くことが目的)。
そのうえで長さが必要だと判断される場合は、
・準備不足か技術不足です。設定やアイデアや世界観をまとめたり、描写訓練しましょう。
ディテールを増やすべき場面なのにどうしても言葉がでてこない場合、誰かに原稿を読んでもらって質問してもらいながら説明するといいでしょう。あるいは小説の場面に近いロケーションを歩きながら感覚を言葉にして、それを録音。あとでテープ起こししてみるのもいいですよ。
ちなみにここまで書いといてなんですが、ぼくは長くてリアルな描写よりも、俳句みたいに短い簡潔な言葉で場面を言い表している小説が好きです。このへんの好みは読者によりますよね。
小説における描写の長さや、全体の枚数の見極めはプロでも本当に難しい部分なので、ぼくも毎回悩んでは失敗しています。
みなさんの理想の作品をイメージして、そこに近づけるように執筆してみましょう。
「生き延びるためのめろんそーだん」では、物書き志望の皆様からのご相談を募集しています。
応募方法は簡単。こちらのフォームに記入するだけ。
Web小説を発表している方は、お悩みとあわせて作品も読んで回答します。お悩みお待ちしております。
コメントを残す