コラム column
2018.11.29

Nov. 2018

創作を減点方式で考えた時点で負け

monokaki編集部

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 当欄は、編集長の有田が一か月の記事を振り返って綴る、monokakiの編集後記です。
 11月の連休は、エブリスタも協賛している2泊3日の小説ハッカソンイベントNovelJam2018 秋に遊びにいきました。昨年はスポンサー審査員として参加したのですが、今年は純粋な見学。NovelJamは「著者・編集者・デザイナーが3人一組のチームとなり、2泊3日で小説を書き上げる」という稀有な体験ができるイベントですが、なかでも「2泊3日をともにした16人のうち、作品が入賞する人もいれば、しない人もいる」というある種残酷な審査システムが、大きな魅力になっていると思います。

 公募に挑戦して落選する経験はあれど、同じだけの時間を費やして、同じテーマで作品を書いた、顔も名前も知っている人と競作する、場合によっては「負ける」(もちろん、創作は勝ち負けではないので、便宜上の表現ですが――)経験を持つ人は、そういないのではないでしょうか。昨年参加したときは、講評後の懇親会で自分の作品の「どこがだめだったんですか?」と聞いてくる方も多く、返答に困ったのを覚えています。

 新人賞の選考をしていると、「○○な作品はだめですか?」「○○な作品は減点されますか?」というご質問を、やはりよくいただきます。これに答えるのは非常に難しい、なぜならたいていの審査員は作品を減点方式で採点しないからです。そして、落選の理由は落選作品の数と同じだけあるので一概にはいえませんが、多くの作品は「選ばれない理由があった」から選ばれなかったのではなく、「選ばれる理由がなかった」から選ばれないのです。

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 王谷晶さんの「おもしろいって何ですか?」は、毎回ヘドバンのごとく頷きながら、実際に「ちょwww」と声に出して笑いながらでなければ読めない人気連載ですが、今月は特に、「商業作家は女も男も全員ジゴロ、それもモッテモテのジゴロを目指さなければいけない」という一文に膝を打ちました。

 少し乱暴なたとえになってしまいますが、誰かがあなたに愛の告白をしてきたとします。特に大きな欠点があるわけではないけれど、大きく萌える点もない相手です。あなたが「ごめんなさい」と断ったとき、相手は「嫌なところがあったら直しますから!」と食い下がってきたら、「じゃあ、こことここを直してくれたら好きになります」となるでしょうか? ならないケースの方が多いですよね。

 「○○な作品はだめですか?」「○○な作品は減点されますか?」という問いは、「貧乏じゃなくなったら付き合ってもらえますか?」「美少女じゃないと好きになってもらえませんか?」という問いに似ています。たとえ貧乏でも、見た目が好みで優しい人であれば付き合いたいと思うかもしれないし、美少女じゃなくても、スタイルが良くて話が合う人なら好きになる可能性は大いにあります。重点は常に欠点(何ができないか)ではなく、魅力(何が人と違っているのか)の方にあるのです。「選ばれない理由があった」から選ばれないのではなく、「選ばれる理由がなかった」から選ばれない、と前述した意味が伝わりましたでしょうか。

 恋愛に喩えると、審査員の好みが結果を左右するように思うかもしれませんが、恋愛と違って、もちろん賞の審査には「水準」というものが存在します。自分の物語を赤の他人に正しく伝えるために、最低限必要な設定力・文章力・構成力のラインのことです。けれど、「すごくおもしろいけど水準に達していない(=欠点がある)から受賞できない」作品は、実はほとんどないといっていいでしょう。「水準に達してる(=欠点はない)けど、あんまりおもしろくない(=魅力がない)から受賞できない」ものが、圧倒的に多いのです。創作はテストではないので、減点方式で考えてしまうと、途端にいちばん大事な「おもしろさ=魅力」が失われます

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 海猫沢めろんさんの「Web小説定点観測」では、毎回テーマごとにTwitterで募集した自薦のWeb小説を紹介しています。11月のテーマは10月に引き続き「陰キャ」。応募作を読んでのめろんさんの感想は、以下のようなものでした。

応募作はさすがにみんな上手くて、どれもレベルが高いんですが、欲を言えば「陰キャ」の真実に迫るなにかが読みたかったです!(なんだよ真実って)

 なんだよ、「陰キャ」の真実って……。でも、おもしろい小説は、読み終わったあとに「陰キャってこういうことだったのか……!」と、胸の内を爆破されるような気付きを与えてくれます。このめろんさんの一行は、月初にインタビューしたyomyom西村編集長の言葉とも呼応します。

皆の発想のベースに何があるのかを、総体的に掬い取っていけるのは小説だけだと思っています。ロジックとロジックの対立構造だけではなかなか気付かないところに、文芸の果たしてきた役割がある。

 もしあなたがNovelJam参加者で、テーマに「陰キャ」を与えられたら、何を書くでしょうか? 何について書いたら、参加者16人中、もっとも魅力的なものが書けるでしょうか? 「この中で一番、あっと驚くようなどんでん返しが書ける」「誰もが共感してしまう心理描写ができる」、あるいは「自分より陰キャな人間は絶対にいない!」と、言い切れるでしょうか? 小説を書く人ばかりの母集団だと、「この中で自分が一番陰キャだ!」と思う人は10人くらいいて、「この中で最もリア充陽キャなのは自分だ。陽キャにしか書けない陰キャを書いてやる!」という作戦の方が、案外希少性が高いかもしれません。

 いま、ひとつの部屋に、ランダムに16人のアマチュア物書きが集められたと想像してみてください。その中で、一番「おもしろい」小説を書くためには、何を武器にしますか? 「これだけは誰にも負けない!」というアピールポイントがありますか? 小説を書くことは、ラブレターを書くことに似ています。同時に、小包に爆弾を詰めることにも似ていると思います。審査員は、おもしろさに熱烈に求愛され、粉々に打ち砕かれたいと思っています。減点対象は特にないけど、おもしろくないものには「ごめんなさい」するしかありません。一番魅力的なアピールポイントを、一番破壊力の高い方法で届けてほしい。勝負はすべてそれからです。

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