コラム column
2019.07.30

Summer 2019

パッケージ化された商品としての本を考える

monokaki編集部

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当欄は、最近の記事を編集長の有田が振り返って語る、monokakiの「編集後記」です。
5~7月は、長編に関する以下の二つの記事が、特によく拡散されました。

アマチュア作家永遠の!? 課題、「長編が書けない」「長編を完結させることができない」「長編を書いてもおもしろくならない」の3つに、正面から向き合った記事です。
大切なことはすべて海猫沢めろんさんと堺三保さんがお話ししてくれていますので、繰り返すことは避けますが、ここではそのさらに次の段階、「長編は書ききれるけど新人賞に通らない」「Webでの受賞歴はあるけど、なかなかデビューできない」というお悩みについて、考えていきたいと思います。

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「どうすれば書籍化できますか?」というのは、物書き志望の方から切実に投げられる質問です。これに対する一番シンプルな回答は、「完結済みの長編作品を、できるだけたくさん書いてください」になります。

紙の書籍は、作家が渾身の力で書き上げたひとつの「作品」であると同時に、出版社によってパッケージ化された「商品」です。書籍化できる/できないの差分は、「作品」の質に応じる……というのも純然たる事実ですが、ここに「パッケージ化された商品としての本」という考え方を足すと、また違った側面が見えてきます。

たとえば、「10,000字しかないけど、最高の小説が書けた!」と言っても、この小説をすぐに商業出版で書籍化するのは難しいでしょう。本は出して終わりではなく、広く読者に読まれ、売れて初めて商品として成立します。「売れる」とはどういうことか? 印刷代や輸送費や人件費など、制作にかかった費用を回収でき、さらに利益が見込めることです。そのために、商品としての本には一定の「量」と「質」、両方が担保されている必要があります。

同人誌を作った経験のある方、エブリスタやnoteなどで有料作品を販売した経験のある方はピンとくるかもしれませんね。イベントの出展料や印刷代とにらめっこしながら、さてこの新刊は30部刷るか、思いきって50部刷るか……!? 自分のお金を使う場合、すごく慎重に吟味しますよね。
Web上での作品販売も、一話100円なのか300円なのか、「作品に値段をつける」って、想像以上に大変な行為です。客観的な目を持たないとできませんし、一回値付けしたものに対して「あんまり売れなかった……」「思ったより読まれた!200円にしとくんだったかも……」などと一喜一憂しているとき、作品を書いているだけのときに比べ、「読者」や「お客さん」の姿が、よりくっきりと浮かび上がってきます
プロをめざす方で、「自分で作って値付けして売る」をまだやったことがない方は、ぜひ一度チャレンジしてみてください。

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紙の本の場合、「量」というのは、「すぐに書籍化できる一冊分の分量」、つまり「少なくとも8万字~10万字のボリュームがある完結作品」であること。「質」というのは、出版社が「新人だけどリスクをとって書籍化したい!」と思うことです。

出版社にとって「新人をデビューさせる」というのは、一般企業が新卒社員を雇うことに近く、基本の考え方は投資です。作品募集のページを作って、下読みをして、選考委員を雇って、受賞式を開いて……そのすべてに当然ながらお金がかかります。
5月に「新人賞の懐」でお話を聞いたメフィスト賞の場合、下読みなしで全作品に編集部で目を通すので、通常業務にくわえて、選考期間中はお休みの日や睡眠時間を削って応募作を読んでいると仰ってました。既に読者(=お客さん)がついている人気作家の本だけ出していた方が、ビジネスとしては楽ですよね。しかし、それではなかなか新しい風が入ってこないし、いま人気の作家さんが永遠に作品を量産できるわけではありません。

今すぐは売れないかもしれないけど、5年後10年後レーベルを背負って立つ看板作家さんになるかもしれない、なってほしい、この人ならそれができる」という願いと執念をこめて、「売れないかもしれない」リスクを乗り越えて、皆さん新人作家の発掘・育成に取り組んでいらっしゃいます。
どこの出版社さんも、ほしいのは「5年後、10年後も書き続けてくれる作家」なのです。「何があっても書き続けられること」が、プロをめざす上では第一の条件だと言い換えることもできます。そして、「私は何があっても書き続けられますよ」と示す一番いい方法が、「完結した」「長編を」「複数」書くことなのです。

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「作家が書きたいもの」と「読者が読みたいもの」が一致したとき、「作品」は初めて「商品」になります。デビューして終わりではなく、デビューしてからも続く試行錯誤については、創作居酒屋「『売れるもの』と『自分の得意・不得意』のバランス」で、実際に書籍化経験のあるWeb作家の皆さんに語ってもらいました。
「表紙のイラストレーターさんって自分で選べるの?」「書店員さんとのお付き合いってあるの?」など、パッケージ化された後のお話もリアルにわかります。

いつの時代も流行ジャンルはありますが、著者の書きたいものと完全一致しているケースはむしろレアですものね。うまく流行と自分の趣味とを融合させる技術は、作家を長く続けていくうえで、必須のスキルかもしれません

「書き上げてもないのに、デビューの方法をあれこれ悩むなんて、本末転倒だ」というご意見もあるかもしれません。しかし、書き続けるのは、本質的に孤独で、大変な作業です。「何のためにこんなことしてるんだろう?」「ここまで苦労する価値がこの作品にあるのか?」という思いに囚われてしまった経験は、多かれ少なかれ誰しも持っているのではないでしょうか。

行き詰ったら一旦作品世界から離れて、「この小説、商品になったらどんな感じかな」「どうパッケージされて、いくらで誰に売れるかな」と考えてみる。現実逃避のようで、案外有効な「読者を意識する方法」です。

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