コラム column
2018.02.22

Feb 2018

波打ち際の攻防

monokaki編集部

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 書きたい気持ちに火をつける。すべての――特にまだ世に出ていない、これから生まれようとしている「物書き」に向けて、物書きのためのメディア「monokaki」を贈ります。

「monokaki」は、エブリスタが運営する「物書きのためのメディア」です。
プロもアマチュアも問わず、物を書くことは、時にとても孤独な作業です。
長い時間と労力の果てには、書ききった人にだけ見える風景があるはず。だから、

ストーリーを作る技法が学べる。
創作上の悩みが解消される。
書きたい気持ちに火がつく。

monokakiは、頭の中でくしゃくしゃになった原稿用紙をふたたび開き、
物語の「つづき」に取り組みたくなるような記事を提供していきます。

 これが「monokaki」の所信表明です。
 エブリスタはWeb上の小説投稿サービスですが、プロの作家を招いた小説講座、事前予約制の持ち込み会、誰でも参加できる周年パーティーなどを定期的に開催しており、わたしたちは年間およそ100名、多いスタッフだと200名以上のWeb作家さんにお会いして話を聞きます。

 数百名規模の作家さんにお会いして見えてきたのは、老若男女、あるいは執筆歴や実力を問わず、意外にも作家が抱えている悩みはみな共通していること。「よいアイディアが浮かんでも、途中から『これは本当におもしろいのか?』と悩んで筆が止まってしまう」「魅力的なキャラクターが書けない」「短編は書けるけど長編が完成させられない」……。

 書店に並んでいる数多の小説、そして書籍化にまで至らなかった――けれどしっかり完結まで書かれた――その数百倍の数のWeb小説ですらみな、さらに数千数万を数える「完成しなかった小説」「成就しなかったアイディア」たちの上に見える、文字通りの「氷山の一角」なのだと実感します。しかしその数万数十万の未完作品の中に、誰かにとっての「人生最高の一冊」が隠れていないと、なぜ言えるでしょうか?

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 一方で、有名出版社の編集者に会うと、「新しい才能がなかなか見つからない」「新人賞応募者の平均年齢が上がっている」「若い書き手はどこにいるのか?」と、やはりみな一様な悩みを抱えています。このギャップは一体何なのだろう、と、長らく思い続けてきました。

 多数の新人賞で審査員を務める作家の高橋源一郎氏は、自身の過去の選評を再録した書籍『デビュー作を書くための超「小説」教室』の前文で、新人賞の選考の場を「波打ち際」にたとえています。

 「新人賞」の選考を何度も重ねているうちに、ここは「波打ち際」ではないかと思うようになった。「海」から、いろんなものが打ち上げられてくる。「宝物」は……そんなに簡単には見つからない。どんなとき、どんな条件で、「海」から上陸することができるのか。そこには、小説や文学にとって、だけではなく、人間がかかわるものにとって極めて大切ななにかがあるように思える。

 この「波打ち際」の風景は、デビューを渇望するアマチュア作家と、才能の登場を渇望する文芸編集者のあいだでは、大きく乖離しているのではないか? 一方にとっては、入り組んだ海岸線の奥にある、ポルコ・ロッソが寝椅子を広げた隠れ家のような入り江に。もう一方にとっては、太平洋岸にまっすぐ広がる、定規で引いた直線のように、見えているのではないか。

 今日もきっと、どこかで新人賞の選考の下読みが行われているでしょう。出版社の依頼を受けたライターたちの手元で、書かれたばかりの原稿たちが「海からの上陸」をめぐって、波打ち際の攻防を繰り広げているさまを想像します。もう一押し、もう一点の加点があれば一次選考、二次選考を突破したかもしれない作品が、その一歩が足らず沖に流されていると思うと、堪らない気持ちになります。わたしたちは、プロを目指す書き手ひとりひとりの顔を見てきて、実際に言葉をかわし、彼ら彼女らを知っているからです。

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 持ち込み会では、「今日慌てて書いてきました」と恥ずかしそうに笑いながらプロットを見せてくれる作家もいれば、無言で、震える手で原稿を差し出してくる作家もいます。そのひとつひとつが持つ発想のきらめき、文体の独自性、あるいは完成度の高さに、驚かされることも少なくありません。

 「宝物」を作り出すのも、見つけ出すのも、その源泉は何よりも物語を愛するすべての人々の熱量であるはずです。その熱量を損なうことなく、作家から見える波打ち際の風景を押し拡げ、作品を岸へと導くのがエブリスタの役割であり、そのための補助線として「monokaki」があります

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 当欄では、編集長の有田が、いましがた船出したばかりの本サイトについて、月に一度編集後記のように綴っていきます。複数の記事の取材を通して見えてくる共通のトレンド、あるいは記事には掲載しきれなかった小さな違和感などを集めて俯瞰することで、いま「物語」をとりまく現状がモザイクタイルのように浮かび上がってくることを期待して。一人でも多くの書き手が、一つでも多くの作品が世に出て、出会うべき読者に出会うことを期待して、創刊の辞とします。

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