コラム column
2019.06.18

vol.2

Q. 思うように文字数が増やせません

海猫沢 めろん

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こんにちは。海猫沢です。

前回から始まった悩み相談コーナーですが、いろいろなお悩みありがとうございます。
ぼくも常に悩んでいるのでみんなの悩みは他人事だと思えません。機会があればサシで話がしたいですね。
というところで今回の悩みですが、ちょっと長くなりそうなので急いで本題にはいります。

長編を書こうとしてもぜんぜん書けない

今月の相談者:紫津夕輝さん(24歳)
執筆歴:8年目
ご相談内容:8万文字以上の長編にしたいと思っています。でも長編が書けないです。よくて5万文字くらい。
だから描写とか増やして文字数を稼ぎたいので描写のコツを教えて欲しいです。
又、それ以外で文字数を増やす方法はありませんか?

今月の相談者:サナミさん(18歳・学生)
執筆歴:2年未満
ご相談内容:どうしても長く小説を書けません。
頭の中ではストーリーが出来ているのに、いざ文字におこしてみると10,000字、どころか5,000字にも達していなくてガッカリすることがよくあります。
どうしたら話の流れは変えずに長く書くことが出来ますか?


紫津夕輝さんとサナミさんの悩みは、

 長編を書きたい。
 もっと文字数を増やしたい。

という二点ですが、この悩み、むちゃくちゃわかります。

ぼくも高校生の時に壮大なファンタジーとかを空想していて、いざ書き出してみるとプロローグとかやたら壮大なのにぜんぜん続かなくて3ページくらいで終わった経験があります。そのあと、小説の新人賞に応募しようとしたんですよ。そうすると、だいたい新人賞って400字詰め原稿用紙300枚くらい必要じゃないですか。ぜんぜん書けませんよね。

だから、最初のころは掌編小説——5枚くらいのコンテストに送ったりしてましたそこから次に30、100、300と伸ばしていった記憶があります。

ちなみにネットは文字数換算で数える人が多いですが、なぜか出版関係は400字詰め原稿用紙換算です。

 掌編 2千字=5枚程度
 短編 5千字=12〜20枚前後
 短編 1万字=25〜35枚前後
 中編 4万字=100〜150枚前後
 長編 8万字=200〜300枚前後

というのが目安でしょうか。

文字数を増やす技術

単純に文字数を増やす技術はあります。調べればいっぱいでてきますが、ひとまず基本的な話をしましょう。

ほとんどの小説は大雑把にわけると2つの文章で出来ています。すなわち「会話」とそれ以外の「地の文」です

文字数を増やしたいならこの両方を増やせばいいわけですが、地の文の描写を濃くするほうが全体のバランスが崩れなくていいと思います。

地の文の情景描写の基本は、

カメラ位置(対象物に寄ったり引いたり)+五感(香り、味、感触、色、音)+α(記憶とか独白とか、あるいは風景にまつわるエピソード)

で書くことです。例えば、

 ぼくは喫茶店で店員がもってきたレモネードを飲んでいた。

という文章を長くしてみましょう。

 テーブルにグラスを叩きつける激しい音とともに、黒いエプロンをつけた黒髪の男性店員が丸テーブルの中央にレモネードを置いた。驚いて顔を上げると、店員は驚くべきことに言葉を発することなくオーラで「すいません、ここ禁煙席です」と語っていた。ぼくは慌てて手にしたタバコを携帯灰皿に仕舞って嘘くさい咳払いをしつつ、店員が去るあいだ、ごまかすように円筒形のグラスを見つめた。グラスのなかには5:5の割合でレモネードと氷がつまっており、水面には輪切りレモンが3枚とさくらんぼが浮かべられている。氷が多い。これはもはやレモネードというか氷レモネードではないかと突っ込みたくなるが昨今の飲食店の苦境を思えば致し方あるまい。テーブルのわきから水色のストライプ模様のストローを引き抜いてレモネードに突き刺し、底に沈殿しているシロップをかき混ぜると、氷がカラカラと鳴って水滴がテーブルに水たまりを作る。ぼくはゆっくりとレモネードを口に含むと、顔を右側に傾けてゆっくりと飲み込んだ。つい先週、左の親知らずを抜いたせいか、左の歯に冷たいものがあたると地獄のような激痛が走るのでどうしてもこのような奇妙な飲み方になってしまう。どうしてレモネードを頼んでしまったのか。暖かい紅茶とかにすれば良かった。いや、そもそも親知らずを抜くという行為を後悔していた。親知らずを抜いたせいで二週間ほどロキソニンを飲み続けなくては眠れない。ロキソニンの飲み過ぎで胃が痛い。穴開いてるんじゃないかな。吐きそうだ。なんでレモネード頼んだんだろう。半分ほど飲んだところでストローを口から離し、天井を仰ぐと飛行機のプロペラみたいな大きさの黒いサーキュレーターが回転していた。とにかくぼくはレモネードを飲んだ。

良し悪しは置いといて、今いる喫茶店で頼んだレモネードの描写だけで20字ちょいが600字ちょいになりました。30倍です。
細部のディティールを細かくして解像度の高い文章を書けば必然的に文字は増えますし、なんとなく小説っぽくなっていきます。
この方向で描写したいなら、海外文学などを参考にすると良いと思います(オススメはスティーヴン・ミルハウザーの短編)。

紫津夕輝さんの作品の冒頭、

 クレアは教会近くの森へと足を踏み入れる。まだ朝日が昇ったばかりだからか、フクロウが鳴いていた。

という文章も、この方法で詳しく描写をすることが可能です。

というわけで技術はわかった——でも、なんかもやもやしませんか?
ここで一度、文字数が足りなくなる原因について考えてみましょう。

「長く書くこと」が目的ではない

まずは「文字数が必要である」という大前提があるんですよね? この前提が出てくるということは、長編を書きたい、つまり長い小説を書いてみたいということです。もっと具体的に言うと、「壮大なスケールで魅力的キャラクターがいっぱいでてきて奇想天外な事件がいっぱい起きる重厚な小説を書きたい!」これが目的だと思うのです。あるいは、「あまり事件は起こらないけれど静かで美しくてなんだか心地良い世界が書きたい」かも知れません。
とにかく、決して「ただ文字数が多いだけの小説を書きたい」ということではないはずです。

つまり、長く書くというのは、あなたの長編を魅力的にするための「手段」にすぎないのです。長く書くことが「目的」になってはいけません。

ところが、書き終わったものが短い場合、なぜか「これをもう少し長くしなくては」と、長く書くことが「手段」ではなく「目的」にすり替わってしまいがちです。
確かに原稿の加筆修正は大事です。しかしそれは必要最低限でいいのです。作品は生き物であり、その作品自体の適切な枚数というものが存在します。「作品が面白くなる/良くなる」方向に伸ばす、という目的だけは忘れてはいけません。

ぼくは過去に150枚の中編を350枚くらいの長編にしたことがありますが、その場合、根本的な設計の見直しが必要でした。正直、今ならイチから書き直すだろうなと思います。

作品に必要な枚数を自問自答

まとめるとこういうことです。

作品ごとに最適な枚数が存在します
本当にその作品にとって、その文字数は必要でしょうか? 
目的と手段が逆転してませんか?
むしろ短くしたほうがいいのでは?

まずこれを自問自答しましょう。

「目的」と「手段」をまちがえない(長くすることが目的ではなく。良い作品を書くことが目的)

そのうえで長さが必要だと判断される場合は、

準備不足か技術不足です設定やアイデアや世界観をまとめたり、描写訓練しましょう

ディテールを増やすべき場面なのにどうしても言葉がでてこない場合、誰かに原稿を読んでもらって質問してもらいながら説明するといいでしょう。あるいは小説の場面に近いロケーションを歩きながら感覚を言葉にして、それを録音。あとでテープ起こししてみるのもいいですよ。

ちなみにここまで書いといてなんですが、ぼくは長くてリアルな描写よりも、俳句みたいに短い簡潔な言葉で場面を言い表している小説が好きです。このへんの好みは読者によりますよね。
小説における描写の長さや、全体の枚数の見極めはプロでも本当に難しい部分なので、ぼくも毎回悩んでは失敗しています。
みなさんの理想の作品をイメージして、そこに近づけるように執筆してみましょう。

「生き延びるためのめろんそーだん」では、物書き志望の皆様からのご相談を募集しています。
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