コラム column

第1話

子持ち専業主婦32歳、私の文章が面白い……?

梶原 りさ

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「この度、○○社から書籍化が決定しました! 読者のみなさんの応援のおかげです(#^^#)」

長く小説投稿サイトで活動していると、マイページやTwitterで、こんな報告を目にすることがある。
Web作家の多くが一度は憧れるであろう明確なゴール、「書籍化デビュー」

しかし実際の「書籍化デビュー」が決まるとき、どういう連絡がきて、どういう経緯で刊行にまで至るのか? その詳細は案外知られていない。
本連載では、その知られざる「書籍化」の裏側を、一人のWeb作家の目線で綴っていく。

処女作の登録、PVアップの秘訣、作家同士の関係性、コンテスト入賞、印税と扶養控除、夫ブロック……。
この物語は、数々の不安や困難に直面しながらも「書くこと」に魅せられた一人の主婦が、やがて作家として大きな成功をおさめるまでの軌跡である。

なお、本作は何名かのWeb作家や出版社、サイト運営社への取材をもとに構成されていますがフィクションであり、実在の人物・団体・事件などとは一切関係がありません。

成長する子ども、ひとりきりの私

子どもの成長が寂しい。そう思うようになったのは長女が幼稚園に通い始めてからだ。

夫と結婚して7年。結婚2年目で子どもを授かると同時に夫の転勤がきまり、当然のように仕事をやめた。今は関東近県で専業主婦をしている。最初は慣れない子育てで騒がしかった日常も、気がつくとぽっかりとした空き時間が増えていた。

娘は幼稚園での生活が楽しいらしく、それは親の私としても嬉しい。でも、親と関係ない場所でみずみずしく育っていく娘に対して、自分は何も成長していない、そんな焦燥感にもかられるようになってきた。

SNSを開くと、同級生の投稿が流れてくる。「昇進が決まりました!女性初の役職で緊張するけど、これからも頑張っていきたい〜〜〜」「アラサーなのに彼氏も作らずダラダラ飲み歩いてていいのだろうかw 今日はビアガーデン!」「夫が記念日にディナーを予約してくれて……」

それぞれの人生。私も文章にまとめてみれば幸せなのかもしれない。地方都市のターミナル駅から数駅の、駅徒歩13分の新築一戸建て住まい。夫はやさしい。子どもはかわいい。でも……

何を投稿するわけでもなく、スマートフォンを閉じた。そろそろお迎えの時間だ。

きっかけは幼稚園の連絡帳から

この地域に引っ越してきてすぐの頃は、「ママ友とかできるのかな」と期待していたところはあった。しかし娘が通う幼稚園は地元色が強く、親子2代で同じ幼稚園、なんてことも珍しくないような環境だ。同じ小・中学校に通っていた同級生ママがたくさんいる環境で、新入りの私は馴染む努力に疲れてきている。みんなちょっと年下だし。噂の回り方もとても早いし。

「カリンちゃんのお母さんの連絡帳って、いっつも面白いですよね〜! 毎日楽しみにしてるんですよ!」

ひよこ組の担任、松永先生はいつも明るい。

「いえいえ、いつも地味な話題ばかりですみません」

「え〜、なんていうか、観察眼?っていうんですか? 内田先生も面白いって言ってました!」

内田先生も!? 内田先生はひよこ組の副担任の男性だ。幼稚園の先生にしては無愛想で、猫背で、パステルカラーのエプロンが似合わなくて、あと……顔がとてもいい

「この間の、カリンちゃんが海で昆布を手放さなかったっていう話すっごく可愛くて……」

松永先生の言葉はもう頭に入ってこなかった。内田先生が私の文章を面白がってくれた。変化のない毎日のなかでポッと灯った希望だった。

SNSには書けない

家に帰っても、まだ嬉しさは心の中を跳ね回っていた。やった〜! でも、誰にも報告できない。私は女子高生でもなんでもない、32歳の主婦だ。「先生への恋」なんて、17歳しかしちゃいけないことだろう。この淡い気持ち、適正年齢から考えてほぼ倍じゃないか。

現実を溌剌と生きるSNSの元同級生たちは、専業主婦が幼稚園の先生に褒められて喜んでるなんて、みっともないと思うだろう。もしかしたら不倫主婦だと噂されるかもしれない。

いや、でも内田先生への気持ちは厳密に言えば恋心ではなく、いわゆる「推し」で、いうなれば人生の癒しであり、べつに不倫をしたいわけではなく……

長めの前髪、不自然なくらいきれいな標準語、長身なので子どもに話しかけるとき不恰好な姿勢になるところ、同僚の先生との人間関係が見えないところ、全体的にクールな感じなのに連絡帳の文字が汚いところ……。内田先生のよいところを思い浮かべながら、詳細に妄想が広がっていく。そういえば私、中学生のころ「夢小説」とか書いてたな

ブログでも開設する? たかだかこのために? 絶対に私が書いてることはバレたくないな、リアルな知り合いにも……もちろん夫にも。検索を続けていたら、あるサイトに巡り合った。

「小説投稿サイト オールスター」

この出会いが、私の人生を大きく変えることになる。

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