コラム column

第4の森

サラリーマン作家の憂鬱

編集 マツダ

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知ってるようで意外に知らない、思ってるより意外に深い。あなたの知らないWeb小説の世界をお届けする「Web小説の森」。
第4回目は知られざるWeb作家の生態に迫ってみたいと思う。この膨大な作品群は一体どこの誰が、どうやって書いているのだろうか。

「なれればいいねぇ、なりたいねぇ。でも違うよ」Web作家の本音

Web小説を読んでいると時折、書き手の姿がチラリと覗く瞬間がある。

小説で食べているプロ作家とは異なり、Web作家は生活の合間にひっそり小説を書いている。メディアで取り上げられない彼らの姿を、直接見ることは少ない。SNSや掲示板などでも彼らの発言は観測できるものの、より詳細な生態を伝えてくれるのは、自分の呟きよりもやや客観的に描かれた、しかし書き手自身の生活が滲んでいるであろう「Web小説の登場人物として出てくるWeb作家」である
たとえばこんな風に。

ここには校内で不要になった粗大ごみが保管されている。(中略)こんなゴミ捨て場には誰も来ないし、何より静かでいい。
 俺は鞄からノートを出し、膝の上に広げた。
『異世界ハーレム戦記』
 俺が今、小説家になろうで連載している小説のネタ本だった。

「なろう作家は静かに死ぬ」

私は10年前に、郊外にマイホームを購入した。
妻が二人目を妊娠した時に、その決意をしたのを覚えている。
そのため、通勤時間は、それまでの倍は掛かるようになった。
私にとって、通勤時間が長いことは、自由時間を得ることに等しい。つまり、歓迎すべき要素だ。
本を読んでもいいし、居眠りすることだって出来る。今はタブレットPCで、WEB小説を書くことを密かな楽しみとしている為、その時間にも充てられる。

「妄想論」

『トシか?久しぶりだなぁ、元気してんのか?』
ヤマさんは結婚をして、現在も岡山で生活している。
自分は10年前の出来事を小説にしていいかと尋ねた。
『小説?なんだ、小説家になったのか?!』
なれればいいねぇ、なりたいねぇ。でも違うよと言って事情を話す。
『なるほど。無料携帯サイトにトシが小説を出してんのか。すごいじゃないか!』
すごくないよ。人気もあがらず鳴かず飛ばずでヒィヒィ言ってるよ、と愚痴をこぼす。

「怨結び6」

生活の合間のちょっとした息抜きに、スルリと執筆が入り込んでいるのがわかる。
隙間時間で楽しむ執筆。プロデビューに向けて情熱を迸らせているのとはちょっと違い、もう少し肩の力が抜けていて、しかし豊かな時間を過ごしていることがうかがえるだろう。「なれればいいねぇ、なりたいねぇ。でも違うよ」というセリフが、彼らの気持ちを端的に表している

「絶対に絶対に仕事を辞めるな」編集者の本音

一方で、「Web作家はプロじゃないから、アマチュアだからね……」と、はっきりした線引きはできない。

過激な言い方をすれば2018年の現在、作家はもはや「食べていける職業」とは言い難い。本の売り上げが年々減少し続ける昨今、ヒット作に恵まれたとしても、二作目、三作目が同様に売れるかどうかはわからない。
出版社の編集者さんが口を揃えて言うセリフがある。「新人作家さんにはまず、絶対に仕事を辞めるなと言うんです」――よほどの売れっ子を除いては、隙間時間副業作家がメインストリーム。そんな時代に、既になっている。

だから作家になっていつか印税生活!と気合いを入れるより、アマチュアのうちから執筆を生活の中に取り入れて書き続ける方法を模索するのがおすすめだ。

サラリーマンよ、書いてくれ

とはいえ、仕事と執筆を両立するのはハードだ。

私が運営スタッフをしているエブリスタで、執筆をやめてしまったユーザー、しばらく書いていないユーザーに向けて、エブリスタから離れてしまった理由を尋ねるアンケートを取ったことがある。「競合サイトへの移籍か?」「エブリスタへの不満ゆえか?」と、戦々恐々取ったアンケートだったが、ふたを開けてみればダントツで多かった理由は「就職・進学による生活スタイルの変化」だった。

しかし、社会人こそ書いてほしい。前述のようにプロデビューしてからも仕事は必要だし、なんといってもサラリーマンならではの、一日の大半を仕事に費やしている人にしか書くことのできない小説を世の中に出せるという大きなメリットがある。

サラリーマンにしか書けないWeb小説は多々あるだろうが、わかりやすい例として「なろう小説」を挙げたい。皆さんおなじみの異世界転生ものである。以下はおそらくは社会人が知見を生かして書いたであろう異世界転生小説だ。

証券マンの異世界転生
ITエンジニアの異世界デバッグ
金で買えないスキルはない~『外資系投資銀行に勤める俺が、異世界転生して金の力でチートする』~
あのドラゴン、差押えます~県税職員のおっさんが異世界で税金徴収~
女勇者は「個人事業主」だから確定申告しなさい!
ファンタジー世界でコンビニを経営したら
プログラマーの俺が世界最強の魔法使い!?
異世界で保険会社を立ち上げたんだが~セールスレディは脳筋エルフ!?
異世界塾講師~どうやら俺が最強の魔法使いを育てるそうです~
卸商が異世界で密貿易をしています。
勇者失格だけど頑張ります!こちらは異世界広告社です!
かいぜん!~異世界コンサル奮闘記~(書籍化)
道を拓け、ドカタの異世界インフラ整備事業~仕事して、恋もして、路銀を稼いで帰路につく~
総合商社で働くエリートサラリーマンが異世界で生活保護を受けながらスローライフを楽しみます
リストラ賢者の魔王討伐合理化計画
異世界監査~おっさん会計士の異世界転生(プロトタイプ)

……きりがないのでこのあたりにしておくが、もはや就職活動中の学生は就職ガイド本を読むよりも、まず「職業名 異世界」「職業名 転生」で検索した方が身につくスキルがわかるのでは……と思うほどの充実っぷりである。

がんばれ、社会人Web作家

働きながら書くのは大変だ。離脱する人も多い。
しかし書くことはきっと何らかの実りをもたらしてくれる。本業の知識を使って、全然関係ない人を楽しませることだってできるのだから。

続けている人がどうやっているのか、Twitterで軽くアンケートを取ってみた。

休日、退勤後がメインではあるが、通勤時間にスマホで書いている人も23%いる。その他を選んだ人の回答では「お風呂の中」「バスを待っている間」「子供をショッピングモールで遊ばせている隙」など、本当に隙間を縫ってスマホで書き留めている人たちもいた。
時間のない人にとってはスマホが便利な執筆ツールとなっていることがうかがえる。

少しずつでもいい、スマホでいい、ぜひ書き続けてほしい、と彼らにエールを贈りたい
スマホの中はあなたの想像力を駆使して自由に妄想を繰り広げていい空間だ。忙しい社会人でも楽しめる娯楽としてWeb小説の執筆が広く親しまれることを、心から祈っている。

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