コラム column

第8の森

君は知っているか、占いツクールという投稿サイトを

編集 マツダ

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monokakiリリース前のある日、編集長の有田が突然私の隣に現れて(彼女はいつも突然なのだが)「ねえマツダ知ってる?占いツクールってあるじゃん昔から占いを作れるサイトなんだけどいま小中学生がそこに小説を書いてるらしいんだよちょっと調べてみて!」と一息で喋って去っていった。
何それ……とぼちぼち調べ始めたら、まぁ知らなかったのが恥ずかしくなるほどの広がりだったので、今回はこの「占いツクール」について書きたいと思う。

「小説家になろう」「エブリスタ」に「この作品は占いツクールで投稿したもののリメイクです!」と書き添えた作品が投稿されている。
オタクを自称する中学生と話してみたら「pixivとか『占ツク』で二次創作読むのが好きで……」と言う。
サイトを見ると……小説投稿サイト運営にかかわっている私にはわかりますよ、これは長い歴史とユーザーの変遷を経て機能を少しずつ少しずつ継ぎ足されたサイトの姿をしている……!

占い風小説?小説風占い?

占いツクール。
ベースの機能は「あなたの今日の運勢は?」「あなたは異世界に転生したら何になる?」などの診断が簡単に作れ、遊べるサイトだ。
作り手は占い、選択肢、数パターンの診断結果を書く。この時、占いを遊ぶ人のことを「(名前)さん」と記述する。
読み手は自分の名前を入力し、数問の選択式質問に答えたりフローチャートを辿ると、書き手が「(名前)」と書いた部分に自分の名前が入れ込まれ、「マツダさんは異世界に転生したら魔法使いです!」などと診断してもらえる。

この「読み手が自分の好きな名前を入れ込める」機能をフル活用して作られているのが占ツク内の小説だ。「占い風小説」「小説風占い」とも呼ばれている。
主役の名前は読み手が自由に選べる。つまり自分が主人公の小説が読める。しかも、二次創作も盛ん。自分を主人公にでき、人気コンテンツの二次創作も楽しめるとなったら、後は何が起こるかおわかりだろう。
私も自分の名前を入力してみたら、韓流アイドルグループと同級生になって恋するマツダの小説や、ヒロアカ(『僕のヒーローアカデミア』)の雄英高校に通うマツダの小説などが読めてしまった
こういう、主人公ならびに登場人物の名前を読者が設定できる小説を「ドリーム小説」または「夢小説」という。

占いを作る機能と占い風小説を作る機能は少し異なっているが、おそらく占い風機能だけがあった頃に小説を書きはじめる人が続々登場した結果、小説に最適化した「小説風占いツクール」ができたと予想される。正確な歴史は調べられなかったので、誰か知っていたら教えてください。

連綿と続く夢小説の世界

ところで私の職場には一見キャリアウーマン、中身はオタクという女子が多い。
職場で「夢小説……」と発言すると、私より年下の女子は「夢小説うううぅ……!!!」「やめろ!」「あったーーー」などと叫びながら全員死んでいく(オタク特有の芝居がかった動作で倒れながら)。
Wikipediaの「ドリーム小説」の項を参照すると2000年頃から夢小説文化はあったらしく、2000年以降に中高生だったオタク女子はもれなくその道を通っているらしい(私は2000年に高校を卒業したのでギリギリ逃れたようだ)。

ドリーム小説と呼ばれる名前変換小説が登場したのは、1997年開設された『Harlem Beat』のファンサイトである[要出典](過去『ホイッスル!』が最初であるとされていたが、1998年ホイッスル!連載前から名前変換機能がついたドリーム小説は存在している)。その後、該当サイトがホイッスル!、テニスの王子様小説を取り扱い始めたことに加え、ドリーム小説変換ツール「DreamMaker」の配布と共に急激に普及した。(Wikipedia 「ドリーム小説」

夢小説の普及を後押しした「DreamMaker」は、個人サイトに貼り付けるための夢小説生成ツールだ。2000年頃、今のような小説投稿サイトは数が少なく、作家各自の個人サイト上での執筆・公開活動が盛んだったのだ。
これはネット小説全体に言えることで、2004年の「小説家になろう」設立も「それぞれのサイトを巡回するのが大変で、であれば皆が作品を持ち寄れる場所を作ろう、と考えたのがきっかけ」1)出典:〈「ネット投稿小説」の現在〉 第3回:小説家になろう〜「場」の提供に徹底する先駆者(マガジン航)だったという。
その後個人サイト縮小に伴い、一般的な小説は小説投稿サイトに、夢小説文化は「ドリームノベル」そして「占いツクール」に移行していったようだ。

10代女子を鷲掴みする夢小説

夢小説文化の凄いところは、職場の女子たちの反応からもわかる通り、一定の年齢になると卒業し、新しい人が入ってくるというユーザーの新陳代謝が激しいことだ。

「夢小説」は実に20年以上のも間、10代オタク女子の通過点として存在し続けている

前述の死んだオタク女子たちを揺り起こして夢小説の話を聞いていくと、「友達が夢小説を書いて毎日FAXで送ってくれた」「ルーズリーフに夢小説を書いて交換していた」などとヤバい話がごろごろ出てきて聞いているこっちも死にそうである。

pixivの小説カテゴリ上位は現在、「夢小説」タグの小説で占められている。
pixivには名前変換機能がないから「占いツクール」のような夢小説を書くのは不可能だが、「読者が自己投影して楽しめるような、原作に登場しない主人公が登場人物と絡む小説」も広義の「夢小説」と呼ばれることがある。要は夢小説的な内容で、名前部分がデフォルトのままになっているものだ。

夢小説的な内容とはつまり、「このキャラに愛されてみたい」「このキャラにこんなセリフを言われてみたい」という妄想をめいっぱい文章にしたものだ。
主人公(つまり読者)像も、美人で優秀、スポーツ万能といったキラキラしたものが多い。

とはいえ、テンプレ通りに作ればいいというものでもない。人気が出るものは読み手の妄想や欲望をかき立てつつ、物語としての見せ場もしっかり作ってあって出来がいい。
あまり表立って聞いてみたことはないが、夢小説で筆力を伸ばしてネット小説作家になった方も多いのではないだろうか

衝動を喚起する「占いツクール」

「占いツクール」は、元々占いサイトであったゆえだろう、小説を執筆・閲覧するのに最適化されているとは言い難い。複雑で、少しコツがいる。
しかし、10代女子を惹き付けるのは、IT企業が気にしがちな「シンプルで使いやすいUI2)UI…ユーザーインターフェース。サイトやアプリの見た目や使い心地など、視覚的に与える印象や使い勝手のこと。」では、おそらくないのだ。
まずは、大手小説投稿サイトが軒並み有していない「名前変換機能」があること。そして雑多さが魅力かと思う。

以前、「小説を書こうと思っていない人」が、内的衝動を喚起されて書くようになるサイトが爆発的ヒットを産むと書いた。「占いツクール」はその雑多さが、まさに衝動を喚起するようにできている。
小説じゃなくても、こんな占いを見ていると「自分もちょっと面白い占いを作ってみようかな」と思える。

奇病棟:診断カルテ
自分がかかる奇病を診断してくれる占いだ。
病気の内容がいちいち耽美で素敵である。

【病名】白雪姫症候群
【症状】毒の有るものしか体が受け付けなくなります。
【経過後】放っておくと、触れた物全てが溶けるようになります。
【治す方法】同じ奇病を患った患者とキスをする。

夢小説専門のサイト「ドリームノベル」よりも、特化していない「占いツクール」が賑わっているように見えるのは、ひょっとしたらこの衝動喚起力にあるのかもしれない
まだまだ可能性がありそうで、これからも楽しみだ。

最後にこれを読んだ大人たちにお願いがある。
自分も占いツクールを使いたくなったら、踏み込むな……とは言わないが、10代女子の文化を大切にしてほしい
どんなサイトでもSNSでも、話題になって大人が大挙して入ってくると文化が変わってしまう。Facebookはおじさんたちのビジネスツールとなってしまい、Instagramからも若者は去りつつある。
敬意を持ってそっと使っていただければ、と思う。

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1. 出典:〈「ネット投稿小説」の現在〉 第3回:小説家になろう〜「場」の提供に徹底する先駆者(マガジン航)
2. UI…ユーザーインターフェース。サイトやアプリの見た目や使い心地など、視覚的に与える印象や使い勝手のこと。
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