特集 feature

「電撃小説大賞」湯浅隆明&高林初インタビュー

「電撃小説大賞」の冠は新ジャンル開拓のためにある

monokaki編集部

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
画像

 日本で最も応募総数の多い新人賞なのではないだろうか?
 過去最大の応募数は6,000作品以上、近年も5,000作品前後で推移しているという、KADOKAWAの電撃メディアワークス編集部が主催する「電撃小説大賞」。

 過去の受賞者には上遠野浩平、成田良悟、有川浩、支倉凍砂、川原礫と錚々たる名前が並び、受賞にこそ至っていないが秋山瑞人、時雨沢恵一、鎌池和馬、三上延、伏見つかさも同賞をきっかけにデビューしている。
 今年で創刊25周年、ライトノベルのトップシェアを持つ「電撃文庫」と、キャラクター文芸のパイオニアでもある「メディアワークス文庫」のラインナップを支えるのは、同賞の並外れた発掘力に外ならない。

 「ラノベ」「キャラ文芸」の定義そのものを拡大し続ける最前線の編集者たちが、まだ見ぬ新人に求める「エンターテインメントの素質」とは何か? 同賞の最終選考委員でもある、電撃文庫編集長・湯浅隆明氏と、メディアワークス文庫編集長・高林初氏に直接疑問をぶつけてみた。
折しも本日、10月5日(金)に発表されたばかりの第25回結果と併せてお読みいただきたい。

「面白ければなんでもあり」の真意は?

――電撃小説大賞で求める作品像、出会いたい作家像があれば教えてください

湯浅:レーベルのモットーとして、「面白ければなんでもあり」と常々言わせていただいています。それは電撃小説大賞も同様で。完成度の高いものでもいいですし、アイディアが斬新でユニークなものでも、売れ線を狙ってるものでもいいんですが、ご自身が「面白い」「好き」と思う作品をご応募いただければと思っています。

――「面白い」の定義について、もう少しお聞かせいただけますか

湯浅:いろんな面白さがあるので、これだ!というものは決めつけづらいですが……小説というのは物語なので、「いかに先が気になるように書けているか」かなと思います。先が気になるキャラクターなのか、ストーリーなのか、どの要素が飛び抜けていてもいいんですが。いかに感情移入をさせるか、あるいは読者に「読んでいて気持ちいい」と思わせる展開や演出ができるか。

高林:「今後の電撃文庫とメディアワークス文庫を支えてくださる作家さんを見出したい」というのが一番大きいので、やっぱり極端な話だと「売れる・売れない」なんですけど、「売れる・売れない」の定義も常に変わりつつあります。

湯浅:新人賞に送られてくる作品は、編集の色がついてないからこそ面白かったりもする。少しぐらい売れ線から外れても、「電撃小説大賞の大賞・金賞・銀賞」という冠を与えることで、新たなジャンルを開拓していけたらという思いもあります。
たとえば第23回の大賞受賞作『86-エイティシックス』はロボットものですが、本来、電撃文庫ではロボもの・メカものってそんなに当たらないジャンルなんです。売れ線でなくても『86』のように作品が面白ければ、大賞を与えることで広げていける。

高林:「メカものがダメ」なのではなく、売れてないメカものは、きっとそれ以外の要素がダメだったんですよね。本当は面白く作れるはずだし、ちゃんと作れば『86』みたいに売れる。エンターテインメントって単純明快なんです。上手い人はちゃんと構成で山を作り、主人公に悔しい思いをさせて、それを解決させる。
またエンタメと一口に言ってもいろいろな種類がある。同じく第23回の大賞受賞作『君は月夜に光り輝く』はいわゆる難病もの。泣けると評判になり、30万部超の大ヒットになった。青春小説のブームの一翼を担った作品であり、時代が求めているものを鋭敏に読み取った受賞作と言える。
そういう意味では、文章的にはまだまだこれからでも、エンターテインメントの素質を持っている方を探しています。完成された方を求めているわけじゃないので、「文句なく面白いよね、文章下手だけど」でもいいんです。テクニック的なものは書いていけばなんとかなる。

売れ線じゃないもの、企画会議では作れないものこそ新人の強み

――第25回の結果が出たばかりです。今年の受賞作も、そうやって選ばれたんでしょうか

湯浅:今年は大賞は該当作なしでした。次点にあたる金賞を取った『つるぎのかなた』は剣道ものなんですね。電撃文庫でスポーツものは珍しいんですが、部活で剣道をやっている高校生たちの熱い気持ちや、実際に戦っている演出・描写、カタルシスがよく書けている。正直に言うと、小説としてはまだまだ荒削りな作品だった。しかし、熱いものが伝わる作品だったので金賞に決まりました。

――たしかに、スポーツものって漫画やアニメでは人気ジャンルですが、ラノベでは少ないですね

高林:小説でやるんだとしたら、剣道みたいに一対一のスポーツがちょうど書きやすいのかなと思います。野球小説でも、9人全員万遍なく書くのではなくバッテリーになりますよね。メディアワークス文庫でも、テニス小説の『DOUBLES!! ―ダブルス―』は重版がかかっています。

湯浅:最初から編集が入ると、企画段階で「スポーツ」と言われた時点で「厳しいなー」ってなっちゃう。その点新人賞は、とにかく完成した作品がポンときて、それを読んでの評価になるので、「売れ線じゃないけど、読んでみたら面白いじゃん」が見つかる場所でもあります。

――ほかの受賞作についてはいかがでしょう

湯浅:銀賞に選ばれた内のひとつ『世界の果てではじまりを』は、しっかりした設定があるファンタジーです。最果ての図書館の館長さんが主人公の作品で、いわゆる「剣と魔法もの」ではないですが、ミヒャエル・エンデの「モモ」のように作りこまれたファンタジー小説でした。
もう1作の銀賞『水無月のメモリー』はオートマタや吸血鬼が登場する、従来の電撃文庫読者にも親しみやすいよく練りこまれた王道のバトルファンタジー作品です。
選考委員奨励賞の作品『シルバー・ブレット -SILVER BULLET』はクライムアクション。架空の犯罪都市を舞台に、特殊能力を持った青年と少女の賞金稼ぎが人を殺しまくるバディ小説で、今の読者層に対してこれで大丈夫か……と思ったりもしますが(笑)。

高林:メディアワークス文庫賞は2作品が受賞しています。『ドミトリーで夕食を』はシェアハウスで暮らす学生たちを描いた物語です。読み味の優しさがとても評価され、流行りのごはんネタもちりばめるなど手堅い作品です。もうひとつは『破滅の刑死者』。メディアワークス文庫では珍しい異能力バトルものです。能力の設定が独特で、ノワールな雰囲気も含めてチャレンジな作品になると思います。ある意味、評価基準が真逆なのも、電撃小説大賞らしいのではないかと

選考委員奨励賞でも2作品、メディアワークス文庫から刊行を予定しています。『逢う日、花咲く。』は少年と少女が時空を超えて繋がるという青春小説の正統派といえる作品です。もうひとつの『鈍感主人公になれない俺の青春』は選考会でも賛否両論だったのですが、斬新なアイデアで個人的には一番楽しみにしています。

――今年もバラエティに富んでいますね。 電撃小説大賞は、受賞者以外の候補者もデビューできるイメージがあります

高林:いかにたくさんいい作家さんを確保できるかが大事なので、編集部員の裁量は大きいです。「これ本当におもしろかったのに何で三次止まりなんだ!」「そこまで言うならあなたが売りなさいよ」となって、実際に売ってやったぜ! みたいな話もいっぱいあります。大賞・金賞・銀賞と4~5作品は受賞して、かつ受賞されなかった方もデビューできるというのは、レーベルの回転が早い電撃小説大賞の強みですね。

男性向けも女性向けも、ライトノベルもキャラ文芸も大歓迎

湯浅:「電撃文庫」「メディアワークス文庫」の2つのレーベルがあるというのも、賞としての特性です。応募者の皆さんも「この作品は電撃」「これはMW文庫」と決めている方もいれば、ボーダーにあるような作品も多くて。ボーダー上のものを送りやすい環境にはあると思います。

高林:昔から「これ何で電撃小説大賞に送ってきたの……?」みたいな作品はありました。メディアワークス文庫というレーベルができたことで、そういった作家さんにも道を開くことができるようになった。結果的にキャラクター文芸というジャンルが成立し、女性読者がメインターゲットになって、電撃文庫とも違う方向性が出てきています。

――ライトノベルというより、キャラクター文芸に近い応募作も増えている?

高林:ここ4、5年で増えていると感じます。それ以前は、ちょっと文芸の方を意識しすぎていて、「文芸」と「キャラ文芸」は似て非なるものなので、読者に届かない作品が多かった。最近はキャラクター文芸の市場を意識されている方が増えましたね。キャラクター文芸も、各社が売れ線の研究だけを重ねていくと市場がシュリンクしちゃうので、新しいものを見出すのが新人賞の使命だと思っています。

――逆に、「意外とこういうテイストはありそうでない」作品はありますか

湯浅:今までと真逆のことをいうかもしれませんが、売れ線に思えるラブコメは意外と少ないですね。今年も最後の方に1本残っただけでした。直球のラブコメや王道の戦記ファンタジーは目立たないです。ファンタジーは挑戦していますが、なかなか新作がいっぱいある中で芽が出ない。とはいえ需要はあるので、電撃文庫としてはしっかり取り組んでいきたいジャンルです。

――「これから来るのでは」と思われるジャンルがあれば教えてください

高林:流行りとはやはり回転していくものなので、平安ものや陰陽師が主人公の小説がそろそろくるのではないかと思っています。かつて安倍晴明ものが席巻した時代があったので、そろそろ一周戻ってきて、むしろ新鮮になっていってもおかしくないかなと。

湯浅:『ブギーポップ』や『キノの旅』みたいな、若い人たちの心に刺さるフレーズがある作品ですかね。あとSF。『86』もSFと言えばSFですし、広義で言えば『君の名は。』もSFですよね。一時期の「SFというジャンルは売れないもの」という空気も、だんだんなくなってきています。

読み手が「なにを面白いと感じるか」意識するのがエンタメ

――最後に、電撃小説大賞への応募を考えている方、今回興味持った書き手に、一言お願いします

高林:電撃小説大賞は「なんでもあり」で、かつ、普通のレーベルと違って男性向け・女性向けどちらの作品もウェルカムです。間口が広いので、「これ、どこにもハマらなさそう」という作品でも、ご自分で「エンターテインメントとして面白い」と思われたら、ぜひ応募していただきたいです。

湯浅:投稿サイトで書かれている方に向けていうと、Web小説は毎回、読みどころやヒキを意識しないといけないですよね。電撃小説大賞は一編の物語で起承転結がとれていればいいです。各話ごとの読者のPVなど気にしなくてもいいので、ご自身の書きたいものを大事にしつつ、ちょっとだけでもエンターテインメントを意識して、プラスしていただけるといけるんじゃないでしょうか。

――「エンターテインメントの素養」を養うにはどうしたらいいでしょう

高林:面白い作品、売れている作品を皆さんなりに解釈していただくのが一番早いと思います。結局、読み手が「なんで面白かったのか」をアウトプットしていくのが書き手。「影響を受けるからほかの作品はあんまり読みたくない」という作家さんもいますが、たくさん読まれたほうが引き出しの多さは出てきます。

湯浅:「ラノベのプロでいくから、自分はラノベしか読まない!」という人がいてもいい。それで上手くいく人もいます。博識でないと書けない作品もあるし、ライトノベルをよく読んで研究していないと書けない作品もある。どのみち、ある程度の完成度がないとなかなか受賞には至りません。

高林:受賞作は、ある程度の修正だけで本として刊行しなくてはいけないですからね。「根本的な問題があるので、ガラガラポンで1から書き直したほうがいい」という作品なら、それは「受賞作品」ではないので。

――受賞には届かなかったけどデビューした作家さんたちに、何か共通点はあるのでしょうか?

高林:『ビブリア古書堂の事件手帖』の三上延さんは、もともとガルシア=マルケスなどマジック・リアリズムの小説が大好きで、純文学系の賞に応募されていた。デビューするためにどうしたらいいのか考える中で、初めてライトノベルを書いて応募したら三次選考まで残った。デビューしたければ、「こういうものしか書きません」というより、柔軟な人の方がいいかもしれません。「どうしても作家になりたい」のか、「自分はこういうものしか書きません」なのかは、人それぞれだとは思います。

(インタビュー・構成:monokaki編集部、写真:鈴木智哉)

↑↑