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「メフィスト賞」岡本淳史&都丸尚史

「絶賛か激怒しかいらない」これぞメフィスト賞

monokaki編集部

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 中学生の頃、小説といえば「講談社ノベルス」しか読んでいなかった。といえば過言になるが、京極夏彦、森博嗣、清涼院流水、乾くるみ、殊能将之、舞城王太郎、西尾維新といった綺羅星たちを輩出した、このレーベルだけは特別だ――そんな「本読み」は、少なくないのではないだろうか。

 破天荒な作家たちを生み出した「メフィスト賞」もまた、破天荒な新人賞だ。賞金なし、〆切なし、下読みなし。公募新人賞というよりも持ち込みに近い形態だからこそ、「一作家一ジャンル」とも呼ばれる超個性派を生み出し続けているのだろう。ミステリの枠を超え、日本の現代小説をアップデートし続けてきた同賞の裏側を、岡本淳史さんと都丸尚史さんに聞いた。

下読みなし!全作品、編集部が直接目を通します

――メフィスト賞は開催概要からとてもユニークな賞ですね

岡本:一次選考から編集者が直接目を通して、受賞作を決めています。他の賞だと、最終選考は作家の方に読んでいただき、編集部が一番いいと思った作品とは違うものが受賞することもあります。それは批判的な意味ではなく、「そういう読み方があるのか!」と僕ら編集者は勉強するんです。一方でメフィスト賞は、自分たちが責任をもって受賞作を出さなきゃならない賞ですね。

――一次選考からということは、下読みなどもなく、すべて編集部の方が目を通される

岡本:はい。だいたい4か月に1回選考を行い、200本ぐらい応募作が集まります。それをまず編集部の人間で均等に分けて、その中で「おもしろい」「とんがっている」と思える作品があれば座談会に上げていくシステムです。

――誌面に掲載される座談会も毎回たのしみに拝読しています。意外と意見が割れますよね

岡本:文芸第三出版部には編集長やチーフもいますが、各編集者が編集長みたいなものです。同じ部署だからと言っても、それぞれ小説の見方や嗜好が多様でして。僕も、当時の部長に気に入られていない作品を受賞させたことがあります。デビュー作で帯に「部長非推薦!」って書こうとしたら、断られたんですけど(笑)。

岡本:一人推しであったとしても受賞作を出せる賞だけに、一人一人が「自分がこの本を売るんだ、このジャンルを作るんだ!」という心持ちでやっています。今年4月には3作品が同時受賞となりましたが、その3作を見てもメフィスト賞の多様性を感じてもらえると思います。「面白ければ何でもあり」というのもメフィスト賞の特徴ですから。

――今あるジャンルからこぼれるようなものも含めて、ということですね

岡本:最近だと第58回受賞作『異セカイ系』(名倉編)は座談会で「まったくわからない」という人と大絶賛の人、感想が真逆にわかれました。そういう作品ほど、すごく魅力があって頼もしい。もちろん、みんなが素晴らしいという作品もあります。第59回受賞作『線は、僕を描く』(砥上裕將)は絶賛の嵐でしたね。水墨画を題材にした王道の青春小説です。6月に刊行予定で、講談社2019年の大本命だと書店員からも社内からも声が上がっています

「何かが起きている途中」から書き始めよう

――審査の際、応募原稿のどういう部分を見られていますか?

岡本:テーマ、題材、キャラの面白さ、そして構成力や文章力など上げたらキリがないですが、個人的には特に「読み感」を気にしています。グイグイと最後まで読み進められるかどうか。審査なので最後まで読みますが、ラストにどれだけおもしろさや驚きがあろうとも、途中がつまらなかったら厳しい。一般読者として楽しむための読書だったとしたら読むのを止めていたかもしれない。最初の数ページをどうおもしろく見せるのかも重要だと思います。読者が店頭で立ち読みしたときに、2、3ページおもしろければ興味を持ってもらえる。冒頭でどれだけ読み手を引っ張れるかは気にしています。

都丸:もちろん、文章の力やキャラクターの魅力があれば、ゆっくり・じっくり読ませるというのもできるんですけど、「長さ」というのはあくまでも結果なんです。読ませるための推進力はどんどんボールを読者に投げていくことで、それが続けば、読者は長くても読んでくれる。

――どうすれば冒頭をキャッチーに書けるでしょう?

都丸:「何かが起きている途中」から始めるのがコツです。「こんなことがあります、だから次にこういうことが起きます」と書くのは丁寧なんですけど、前提の「こんなことがあります」の時点で退屈してしまうかもしれない。だったら「今まさにこういうことが起きてしまってるんですよ!」から始めてしまう。「それはこんな理由で起きたんです」の説明は後からでもいいんです。

先に枚数を決めてしまおう

岡本:全体構成の話なんですが、長年にわたりヒット作を生み出される田中芳樹さんは「1章50枚」と決めて書かれることが多いんです。「このシーン、何枚書いてもいいですよ」だと冗長になる。ページ数を固定することで、全体のテンポや、1章に入れるべき要素を決められるんですね。自ずと読み感もよくなりますから、読者も一気に引き込まれるはずです。

――完結までに書くべき量が明確になるのは、気持ちが楽ですね

岡本:書きたいこと、調べたことをすべて原稿に入れたいという気持ちをグッと我慢して、枚数を明確にする。制限されることによってまとめる力、取捨選択能力、描写力などにいい効果が表れると思います。そして最終的に読者が求めるのは、喜怒哀楽。「わあ、おもしろかった!」「笑った」「怒った」「驚いた」など、そういう素直な感情を揺さぶる作品が心地いいし、おもしろい。

都丸:最初は、どうしても説明的なことも書いちゃうと思います。そこから見直して、構成をどう組み替えられるかですね。書き終えたら満足してすぐ出される方も多いと思います。応募前にもう一回、特に冒頭は「もう少しキャッチーにできないかな」と、客観的な目でリテイクしてほしいですね。

――応募は郵送だけですよね。Web応募などは検討されていないのでしょうか

岡本:プリントアウトした原稿からも「人に見せる意識」は伝わってくるので、僕個人としてはWeb応募を今のところ考えてません。読者を意識していない人は、紙が斜めになっていたり、インクが薄かったり、「ちょっと雑だな」というのが見えるんです。原稿への愛がどうも感じられない。

先行作の影響の下で、次に何を作るか

岡本:応募される方に伝えたいのは、「いっぱい読んでください」ということです。たくさん読んで、大好きな作家を見つけてほしい。ミステリでは、トリックがほぼ出し尽くされ、新しいものが見つからないとも言われています。それでもミステリが続くのは、誰かの影響を受けてインスパイアされて、「次に何を作るか」に個性や新しさがあるからです。たとえば綾辻行人さんが大好きだったら、「綾辻さんが書いていない館もの」をどう作るか。

――応募要項に、「人生で最も影響を受けた小説」を書く欄がありますね

岡本:最近では、森見登美彦さんを挙げる方が多いですね。森見さんはうちからのデビューではないですが、森見さんを継ぐ人がこれからどんどん出てくるんじゃないでしょうか。森見さんの影響をミステリ化される方もいますし、当然ファンタジーに挑まれる方もいます。どちらもこちらは受けて立ちます。

――今日のお話から、「先行作への敬意と挑戦」がメフィスト賞の裏テーマなのかなと感じます

岡本:ヒット作や売れ筋をかなり強く意識した応募作、あたかもコピペしたかのような応募作もたまにあります。内容はおもしろいんですよ。でも、「それならこの人じゃなくて、元の作家の作品を読めばいい」で終わってしまう。メフィスト賞は「一作家一ジャンル」。「これは私にしか書けません」という、強い思いと新しさがあるものを求めます。「先行作から影響を受けているけれど、この作家で読みたい」と思わせるものが欲しい。ただし、ひとりよがりにはならず、他人を楽しませるもので。

――どうすれば、そんな作品が書けるでしょうか

岡本:さきほどと話が被るんですが、やっぱりしっかり本を読んでほしい。「自分がこのジャンルを背負うんだ!」「ジャンルの未来を創るんだ!」と思わないと、数作、下手すると一作だけ出して終わってしまう。「これから10年、20年やりたいんだ」という想いで書いてきてほしいですね。本当に「とんがる」って、そういうことだと思います。

(インタビュー・構成:monokaki編集部、写真:鈴木智哉)

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