特集 feature

「R-18文学賞」 西山奈々子

書く時間よりも、直す時間をたくさん取ること

monokaki編集部

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 吉川トリコ、宮木あや子、山内マリコ、窪美澄、彩瀬まる――著作が映像化されたり、直木賞候補に名前を連ねたりと話題を集めるこれらの女性作家たちは、皆この賞からデビューした。新潮社「女による女のためのR-18文学賞」。2000年に創設され、「15歳の熟女でも、80歳の少女でも」女性なら誰でも応募でき、下読みも読者選考も最終選考も女性が行うというユニークな賞だ。
 いまもっとも多くの人気作家を輩出していると言っても過言ではない同賞の選考側はいったい何を考え、どのような作品を求めているのか? 新潮社文芸第二編集部の西山奈々子さんにお話を聞いた。

プロとアマチュアの分かれ目は共感

――「R-18文学賞」で求める作品像、出会いたい作家像があれば教えてください

西山:この賞は「女による女のための」と銘打っていますが、人生のさまざまな局面で女性が直面する悩みや葛藤、複雑な感情はとても一言で言い表せないものだと思います。妊娠や出産などの個人的体験もそうですし、そこまで特別なことでなくても、日々の生活の中で女性として生きていて感じる不自由さや矛盾、あるいは喜びがあるはず。
だから、「楽しい」「嬉しい」「面白い」などの一言ではとても言い表せない、複雑に入り混じった気持ちを掬い上げた作品を個人的には読んでみたいです。読んだ人が、「これは私があのとき感じたことだ」とか、「これはもしかしたら私のことでありえたかもしれない」と感じるような。

――すると、実体験をもとにした作品の方が良いのでしょうか?

西山:いえ、そうとは限らないと思います。もちろん、強く感情が揺り動かされた経験を出発点にしていただいてもいいんですが、実体験には当然限界があるので、そこから想像力をどこまでで働かせられるかのほうが大事なんじゃないでしょうか。
別の言い方をすれば、自分のことを書いて満足してしまう作品ではなく、読者の心を揺さぶることを意識して書かれた作品、読者に伝えたいものがある作品を求めています。「この感情を私も経験したことがある」と読み手に共感してもらえる物語になっているかどうかが、プロとアマチュアの一つの分かれ目でもあるのかな。それと自分の書きたいものとのバランスは難しいところだと思いますが。

――応募総数はどの程度でしょうか? ひとりで3作まで応募できますが、実際に3作応募する人もいますか

西山:例年平均で600作前後です。応募期間がだいたい毎年8月頭から10月終末くらいまでなので、期間をあけて傾向の違う3作を送ってくださる方はわりと多いですね。「書ける人だな」と思う方は、三次選考まで2~3作残り、最終候補作にどれを推すかで迷うこともあります。

――何回目かの応募で受賞されるような、常連さんが多いイメージがあります

西山:今年デビュー作『1ミリの後悔もない、はずがない』を刊行された一木けいさんがまさにそうですね。4回連続で最終候補に残られていて、第15回で晴れて受賞されました。毎年拝読していると着実に腕を上げられているのがわかって、社内選考委員もいつか賞を取ってほしいと心の中で応援している感じでした。ほかには、柚木麻子さんや佐々木愛さんのように、最終候補に残っていた方が、同じ短編の賞である「オール讀物新人賞」からデビューされたり、ということもありますね。

もっとエンタメに寄った作品があってもいい

――受賞作を読むと、地方の閉塞感や、ある種の生きづらさを描く作品が多い印象があるのですが、それは全体的な傾向でしょうか

西山:うーん……あまり意識したことはなかったのですが、もしかしたらそこには短編そのものの難しさがあるんじゃないでしょうか。30-50枚程度の枚数の中で物語をちゃんと動かして、主人公が何らかの成長や変化を遂げるものを目指すと、閉塞的な状況からそれを突破する過程、というのが題材に選ばれやすいのかもしれません。主人公に何の負荷も事件もふりかからず、ただ淡々と進むだけの小説は、物語の魅力が薄くなってしまうので。

――ほかによく見られる主題やモチーフはありますか?

西山:前回はLGBTについて書かれた作品がとても多かったです。これまでも一定数あったんですけど、昨年はことさら多くて、時代を反映しているのかなと。ただ、性的マイノリティの人が登場する場合、その描かれ方はこちらも注目して読む部分です。たとえば、「男だと思って読んだら実は女だったんです!」みたいな、単純な驚きをもたらすためだけにそうした性に設定するのは、あまりに浅はかでは、と思ってしまうので。

――逆に「意外とこういう作品は来てないな」「もっとこういう作品があってもいいのに」と思われるものは

西山:個人的には、もっとエンタメに寄った作品もあってもいいのかなと思っています。感情の機微を丁寧に描くことと、読書という行為を楽しんでもらうためのエンタメ的な工夫とは、決して相反するものではないはずですが、今はだいぶ前者に意識が寄った作品が多いので。もっと読み手を楽しませようとか驚いてもらおうとか、仕掛けのある小説がくると「おお!」と思います。
第15回の大賞を受賞された町田そのこさんの『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』がそうですね。第17回の清水裕貴さんの作品も、二人称小説であることがうまく生かされた、驚きのある小説でした。

――要項上、ジャンルの縛りはないですもんね。ミステリーやファンタジーなどでもOKでしょうか?

西山:もちろん! 恋愛、官能、ファンタジーからお仕事小説まで、何でもOKです。社内選考はいろいろなジャンルの女性編集者が読みますので、純文学傾向が強いものもエンタメ傾向が強いものも大歓迎です。
あと、今年の5月号の「小説新潮」に一木さんと窪美澄さんの対談が掲載されたんですが、その中で一木さんが「自分が一番他人に見られたくないことを書くのがいいと思う」と仰っていて、なるほど! と思いました。自分の中にある吐露しにくいもの、誰にも知られたくないことを書くのに挑戦してみていただくと、客観的な目線も自然に持てる気がするので、すごくいいと思います。

人気作家のバトンをつないでほしい

――他社の新人賞と比べて、R-18 文学賞ならではの売りなどありましたらお聞かせください

西山:入り口は「50枚以下」「ネット応募」「ジャンル不問」で入りやすいけど、それでいて山は高く、実力のある作家がどんどん輩出していることですね。しかも皆さん個性豊かで、「その方にしか書けないもの」を書かれている。そんな活躍している先輩方の後に続いて、そのバトンをつなぐ人になれるのが、この賞の一番いいところなんじゃないでしょうか。
手前味噌のようですが、書店さんや読者の方々にも、「R-18文学賞の受賞者なら、きっと面白い作品だ!」と期待していただけているんじゃないかと。

――大賞、読者賞がありますが、小説家が選ぶ作品と読者の方が選ぶ作品にはどのような差異がありますか?

西山:「大賞じゃない=選考委員が推していない」というわけではなく、選考委員も推していて、かつ読者からの人気も高いものが「読者賞」に選ばれます。読者人気が高い作品と選考委員のお二人の推す作品とがズレることはほとんどないですが、お二人が見られているポイントと、読者の方がコメントしてくださるポイントは違う時もありますね。

――プロならではの目線はどういった部分でしょう?

西山:あくまで私の印象ですが、読者の方は純粋に「作品を楽しめたかどうか」で判断されることが多いのに対して、選考委員のお二人は作品の質はもちろん、「書き手の方がどういう意識で作品を書かれたか」「これからも書き続けていける方かどうか」というような部分も見ておられるように感じます。

――ほかに、応募原稿を見るときに留意する点などがあれば教えてください

西山:文章のリズムは最初に読むときに気になるところです。ブログみたいに「こういう出来事があり、こう思いました」とだらだら書くんじゃなくて、ちゃんと小説になっているか、起伏がある物語になっているか。
たとえば第17回の読者賞を受賞された夏樹玲奈さんの作品は、物語の設定や状況を説明するくだりがなくて、いきなり印象的なシーンからバッと始まる。それから段々と、主人公の置かれた状況がわかってくる。そういう作品は、すごく技術力を感じます。

密度の濃い短編を書くには「どんどん切る」こと

――「小説を書いてもブログみたいになっちゃう」書き手にアドバイスをするとしたらいかがでしょう?

西山:だらだら書いてしまいがちな方ほど、沢山書いたものをどんどん切って、密度の濃い50枚に収める練習をするのがいいと思います。50枚で起承転結を作るのは、実はかなり難しいこと。短編のほうが書きやすくて、短編の先に長編があると思われていることが多いんですが、短距離走と長距離走で必要な力が違うように、短編と長編はそれぞれ違った難しさがあります
とにかく書く時間よりも直す時間をたくさん取ること、自分で何回も読み直すことが大事じゃないでしょうか。

――読み直していないものは、読んでいてわかるものですか?

西山:その場の勢いだけで書かれたものは正直わかります。プロの作家の方は、読み手が思っている以上に原稿を直されているはず。以前、森見登美彦さんが、「書く時間より直す時間を多く取るべき」と仰っていて、これは本当にそうだなと……。たとえば途中で視点がねじれているとか、台詞の発話者がわからないとか、そういった部分は読み直すことで防げるはずなので。

――読む人のことを考えたら防げる部分ですね

西山:あと、応募していただく時には、三浦しをんさんや辻村深月さんの過去の選評を読んでいただくとすごく参考になるはずです。これまでと似た傾向の作品を望んでいるというわけでは全くなくて、留意していただくとよいポイントがわかるかなと。
たとえば、最新の選評でしをんさんが「必要のない一行空き」について触れられていたのですが、これは社内選考でも結構気になるところ。一行空きって確かに便利で、場面転換だったり強調だったりと、とにかく一行空ければそれっぽくなるんですが、物語がぶつぶつ切れるようにも感じられてしまう。意味のある一行空きはもちろん必要なんですけど、あまり無意識に使いすぎない方がいいと思います。

――最後に、これからR-18文学賞に応募されてくる書き手の方に向けてのメッセージがあればお願いします

西山:わたしたち新潮社の女性編集者は、この賞にすごく期待をしています。嬉しいことに他社の編集さんや書店さんにも「R-18文学賞いいよね」と言ってもらえたりして、業界での評価もすごく高い新人賞になっている。それは、選考委員はもちろん、受賞された方や応募してくれる方が繋いできてくださったもの。だから、「我こそは」という方に、ぜひ次のバトンを受け取っていただきたいです。間口は広いので、「自分にしか書けないものがある」と思っている方のご応募をお待ちしてます!

(インタビュー・構成:monokaki編集部、写真:鈴木智哉)

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