特集 feature

UXデザイナー 谷口祐貴

書く人の気持ちを一番に優先する エブリスタ第二創業期

monokaki編集部

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 物を書く人の隣で創作を支える人に話を聞く当連載、「物書きの隣人」。初回は監修者2回目は翻訳家ときて、早くも3回目となる今回は、小説投稿サイトを支える隣人、2015年からエブリスタのUX(=ユーザーエクスペリエンス)デザインを担当する谷口祐貴さんをお招きした。
 「投稿サイトのデザイナー」と書くだけではぴんと来ないかもしれないが、世のWeb作家たちが普段何気なく行っている「小説を書く」という行為を、誰よりも意識的に問い直しているといっても過言ではない、創作の裏方どころか最前線の仕事だ。
 折しも、「サービス始まって以来の抜本的な大リニューアル」を控えているというエブリスタ。2016年の構想から実に3年。リニューアルに込めた熱い想いを聞いた。

「書いたら反応がある」状態が第一に必要

――monokaki にUXデザイナーの方が登場するのは今回が初めてです。まずは簡単に、UXデザイナーとはどういった役割を担っているのか教えてください

谷口:Webサービスを利用するなかで、ユーザーさんが得る体験が「ユーザーエクスペリエンス」です。UXデザイナーの役割は、ユーザーさんが「嬉しい」とか「楽しい」「便利」と感じる体験を設計し、導いていくこと。Webサービスはプランナー・エンジニア・デザイナーといったさまざまな職種のメンバーが一緒に作っていくので、みんなの意識を揃えていくのが大きな役割かなと思っています。

――具体的にエブリスタに話を置き換えると、どういうことでしょう?

谷口:エブリスタでは、書く人の気持ちを一番に優先しています。小説投稿サイトで活動するクリエイターさんの気持ちを考えると、一番悲しいのは「書いたけど誰にも読まれない」ことですよね。せっかく「書きたいと思っているけど、なかなか書けない」段階を突破して書いたのに、反応がないのは悲しい。そうならないために、「書いたら読んでもらえる」「読者から反応がある」という状態が第一に必要になります。

――それは誰しも身に覚えのある悲しみですね……

谷口:第二に、反応があったとしてもクリエイターさんがそれに気付けなかったら無いのと同じなので、ちゃんと気付けるようにする。すると「反応してもらった!」という嬉しい気持ちが生まれて、「次も書こうかな」と思えたり、読者さんと交流するきっかけになったりします。これが起点となって次に繋がっていき、さらに新しい作品が書けたり、新しい人が来てくれたりする。この一連の流れをなめらかにし、喜びの瞬間はさらに強く感じられるよう、体験を設計していきます。

ゼロから作り直すレベルのリニューアル

――エブリスタはこの4月に大幅なリニューアルを予定しています。リニューアルも、書く人の気持ちを最大化するためということでしょうか

谷口:エブリスタはもともと、10年以上前に誕生したモバゲーの小説コーナーからはじまったサービスです。当時はガラケーに主軸をおいて作られていて、その部分が残ってしまっている状態のままスマホの時代が来た。サービスを支える技術、エンジニアリングにも新しさや古さ、賞味期限みたいなものがあります。10年前のかなり古い技術で、どうにかやりくりしてサービスを作ってきたんですね。それが次第に開発チームにとっての足枷になってしまっていた。

――歴史の長いサービスならではの課題ですね

谷口:「ここを変えたいな」と思っても、今の技術でやったら3,4日で終わりそうなものが現状だと2週間とか、時間がかかってしまう。エブリスタの今後、5年先や10年先を考えたときに、クリエイターさんと読者さん、みんなに愛されている状態を提供できるか? と考えると、「このままでは難しい」というのがチームの満場一致での意見でした。

――普段からそういった、5年先・10年先のことを話されているんですか?

谷口:エブリスタのロゴが変わった2016年に、改めてエブリスタを皆で見つめ直して、考える機会がありました。一口に「リニューアル」と言ってもいろんな規模のものがありますが、支える技術から変えるとなると、部分的に直すレベルではなく、ゼロから作り直すのに近い。一朝一夕でできることではないと、皆わかっていました。どのくらいの期間や規模のプロジェクトになるのか、その時点では誰もイメージできなかった。

――それでもやろう、抜本的にリニューアルしようと決断したんですね

谷口:今取り組まないと、僕たちが価値を感じている「まだ見出されていない物語を世の中に届ける」ことができなくなってしまう。これから先も愛されるサービスとして、新しい時代の中でクリエイターさんや読者さんに価値を届けたい。そのためにも、先の長い、光の見えないトンネルのようなプロジェクトが発足しました。

大事なのはクリエイターの中にあるストーリー

――そこから足掛け3年。実際にリニューアルに着手したのはいつ頃からでしょうか

谷口:本格的にプロジェクトが発足したのは2017年4月頃からです(注1)リニューアルに関する技術的な詳細はスライド「10年目の『エブリスタ』を支える技術」もありますので、併せてご覧ください。開発を始める前に、物語を書く方や読む方をオフィスにお呼びして、普段どういう風にエブリスタや、それ以外のサービスを使っているのかお聞きしました。操作性についてはもちろん、「こういう理由でエブリスタが好き」「こういうところが心地いい」という感覚的な部分を理解するために、エブリスタを使っていてすごく嬉しかったこと、哀しい思いをしたことなど、皆さんの中にあるストーリーを聞かせてもらいました。

――インタビューをしてみて、運営側が想定していなかったことはありましたか

谷口:「そういう風に使ってるんだ!」というのは案外多かったですね。細かいことですが、たとえば執筆するときに、スマホで常時2つのブラウザを立ち上げて使うという方がいました。更新した内容をプレビュー機能ではなく、実際に読者さんが読むときの見え方で確認したいので、一方で書いて保存して、もう一方に移動して読んでいると。それは大きな発見で、新しいエブリスタに反映しないといけないなって思いましたね。

――実際にお話を聞かないとわからなかったような、細かい部分ですね

谷口:クリエイターさんの中にも、それぞれ書くことについての考え方があって。思い浮かんだところから徐々に書いていく人もいれば、最初から最後まできれいな流れを作ることに情熱を燃やす人もいる。「イメージを具現化するのはすごくクリエイティブなことだと思うんです」と熱く語ってくださった人や、「本当に命を削って書いてるんですよ」という人もいらして、いろんな感情を知ることができたのが大きな収穫でした。

――書き手から見て、リニューアルで大きく変わる部分はありますか

谷口:大きなところでは、現在ある1ページ1,000文字制限が廃止されます。ガラケーの画面は小さくて、長い文章をひとつの画面の中に書いてしまうと、読むのにも多くの操作が必要になる。そのために1,000文字制限が作られていたわけです。スマホの時代になって逆にそれが創作の妨げになっていると感じていたのですが、エブリスタの根幹に関わる部分だったので、なかなかなくすことができないでいました。

――さきほど聞いたジレンマですね。1,000文字制限がガラケー由来だったとは……!

谷口:逆に「1日に1,000文字は絶対に書く!」という目標にしている方もいらっしゃったので、申し訳ないと思いつつも、それが理由で今後エブリスタを一緒に盛り上げてくれるかもしれない新しいクリエイターさんが参加できないのは、非常にもったいない。いま、多くの方はスマホで書いているので、スマホで書くのに適した形にして、画面内の要素を可能な限り減らし、書くことに集中できるものにしようと考えながら作りました。

100個以上試作してたどりついたエディタ

谷口:「ここにルビを振りたい」と思ったとき、「どうやって振るんだろう?」と考え出すと、創作ではないところに頭が行ってしまう。特に意識せずとも、ルビというボタンがあるからそれを押して、入力すれば勝手にルビが振られている状態になるのが理想です。ほかには、iOSのキーボードは全角の空白が入力できないんですよね。「半角の空白2つにすると行頭がズレるので、全角スペースを別の所からコピーして貼り付けています」と言われて、これも機能として盛り込みました。

――「空白」ボタンを押すと字下げになる? これは喜ぶ人も多いんじゃないでしょうか

谷口:ルビと一緒で、「空白入力ってどうやったらできるんだろう?」と考えさせてしまったら、書くことの集中力が途切れてしまう。かといってあまりに機能が多すぎると、今度は「使いたい機能はどこにあるのか」となってしまう。書く力を最大限に発揮できる、最低限の機能を画面の中に配置するのを意識しました。エディタの試作は100個くらい作ったと思います。過去に「使いづらい」という理由でエブリスタを離れてしまった人がいたら、ぜひ試してみてほしいです。(注2)ルビ入力補助機能はスマホアプリ版のみでの提供となります

――いまサラッとおっしゃいましたが、100個ってすごい数ですよね……

谷口:いろんな小説投稿サイトはもちろん、ブログサービスやEvernote、Googleドキュメントなど、「書く系」のサービスやアプリを改めて観察して、「エブリスタにこの良さを加えるにはどうしたらいいんだろう」と考えました。必要最低限だけど、ほしいものが全部ある状態にしたい。しかも、それが空気のように存在するものをめざしました。

――100個とか作ってると、何が正解かわからなくなったりしませんか?

谷口:機能を作る中での僕の判断基準として、「シンプルになった時がゴール」。ちょっとでも複雑さを感じたら、それはまだあるべき状態に到達できていないからだと思うんです。最終的に、ほかのサービスにも引けを取らないレベルに仕上がったと思います。特にアプリは自信作ですね。

これからはいろんなことに挑戦できる

――アプリもかなりリニューアルされたんですね

谷口:これまでのエブリスタはWebサイトをメインにサービスを提供してきました。でも中高生がエブリスタを見ようと思ったら、まずアプリを探すと思うんですね。使っている人は気付かないかもしれないレベルで、技術的にトライした部分がいろいろあります。アプリもサクサク動くようになって、書くのも読むのもすごく捗ると思います。

――読む人の目線では、リニューアルによって大きく変わる部分はありますか

谷口:読者の方が作品を探して、読んで、本棚に入れておく……というシンプルな流れは、あまり変えずに作りました。「全然違う場所に来てしまった!」という印象にはならないと思います。書く人にはたくさんお会いして、どこに課題や価値があるのか聞くことができたんですが、読者の方にはまだそこまでお話を聞けていなくて。リニューアルした後にいろんな読者の方に継続的にお会いして、もっと使いやすい形に改善していこうと考えています。

――今回のリニューアル一発で完璧になった! ということではなく、今後もブラッシュアップしていくんですね

谷口:「こうしたら使いやすくなるな」とか、「この方が作品が見つかりやすくなるのでは」というアイディアは内部からも出ていたんですが、それが「すぐには実現できません」というのが今までのエブリスタだったんです。サービスの基盤がきれいに整ってきたので、これからはいろんなことに挑戦できるようになります。試しに作ったものを使ってもらって、良ければ全員に展開していくというやり方を促進していきたいですね。

――エブリスタに何か意見が言いたい人は、どうすればいいでしょう

谷口:ご意見BOXに意見や要望を送っていただければ、すべて目を通しています。あとTwitterで「エブリスタ」というワードとともにつぶやかれているものは、できるだけ拾うように意識していますね。普段どうやってエブリスタを使っているのかどういう風に自分に刺さるものを探しているのか、はじめて使った時にどういう気持ちになったのかなど、聞かせてもらえたら嬉しいです。

リニューアルのつらさは創作のつらさに似ている

――すごく素敵なことがこの2年かけて行われてきたのが伝わってきました。逆に、リニューアル中つらかったことや、心が折れそうになった瞬間はありませんでしたか

谷口:作り直している期間の中で苦しかったことは、エブリスタで物語を書いている方々と一緒だと思います。すごく良さそうな改善案を見つけてリニューアルに盛り込んでも、「これが本当に届くのは1年以上後なんだよな……」と思うと、全然手応えが感じられない。僕たちも「ものづくり」をしている一人の人間なので、作っている物への反応が無いと、モチベーションを保ち続けるのが難しいんです。皆で励ましあって、なんとか気持ちを維持しましたね。

――企画チームやPRチームも、要望を言われると内心「そこ今直してるんだよ~~!」と言いたくても言えない、忸怩たる思いでクリエイターさんに接していたと聞きました

谷口:エブリスタは周年パーティーなど、リアルイベントも多いので、「今、正にその機能を作ってるんですよ!!!」ってすごく言いたくなるんですよね(笑)。作品を書いている人の顔を実際に見られる機会はあまり多くないので、僕や開発メンバーも常に参加しています。改めて「僕たちはこういう人たちに向かって日頃考えているんだな」「こういう人たちが喜んでくれているんだな」と肌や空気で感じられる、すごく貴重な時間です。

――逆に、今は他のサイトで活動されているmonokaki読者にメッセージはありますか

谷口:エブリスタは、作品に投げられる「スター」や「ページコメント」など、「読者の反応が見られる」点を常に強化してきたサービスです。作品とそれを書いた人が認められる瞬間が一番尊いと思っているからなんですね。それが他のサービスより強い点だと思います。あとは先ほども話しましたが、エディタがかなりシンプルで使いやすくなったので、試しにきてください。

――リニューアルは4月の、正確にはいつからになるんでしょう

谷口:Webサイトは4月15日の月曜日にお披露目するスケジュールで動いています。直前に何か問題が起きたりしたら前後する可能性もありますが、基本的には4月15日。アプリも同時期の予定です。その後ちょうどGWなので、10連休は創作に打ち込もう! と思っている人は、リニューアルしたエブリスタを使い倒してもらうのもおもしろいかなと思います。

――クリエイターさんの反応が今から楽しみにですね

谷口:過去に何度かリニューアルをして、表面のデザインが変わることもしばしばありましたが、今回はそういうレベルではなく本当に生まれ変わるぐらい、第二創業期ぐらいの大きな変化だと僕は思っています。見た目には「そこまでがらっと変わったの?」と思われるかもしれませんが、これからどんどん変えていけるシステム上の準備は整いました。そんな中で、サービスを使ってくださるクリエイターさんや読者さんと一緒に、もっと快適で、もっと充実した時間を過ごせるサービスに改善していきたいと思います。ぜひ、たくさんの声を聞かせてください。

(インタビュー・構成:monokaki編集部、写真:三田村亮

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1. リニューアルに関する技術的な詳細はスライド「10年目の『エブリスタ』を支える技術」もありますので、併せてご覧ください
2. ルビ入力補助機能はスマホアプリ版のみでの提供となります

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