特集 feature

エディトリアルデザイナー 大岡喜直

本の「様式美」を越えた先に装丁の美学がある

monokaki編集部

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 あなたが一冊の小説を手に取るとき、そのきっかけは何だろう?「好きな作家の新刊だから」「話題になっていておもしろそうだから」「タイトルに惹かれて」……。さまざまな理由が考えられるが、本好きなら誰しも一度、「装丁に惹かれたから」という理由で本をジャケ買いした経験があるだろう。

 作者から編集者へ渡された作品が店頭に並ぶまでに、最も大切な工程のひとつ、装丁デザイン。それを手掛ける「隣人」は、どのような気持ちでものづくりをしているのか? 『わが家は幽世の貸本屋さん』をはじめ、エブリスタタイトルも多数手掛けているエディトリアルデザイン集団・next door designの大岡喜直さんにお話を聞いた。

専用のノートにイメージを書き出す

――最初に、装丁デザインの工程について教えてください

大岡:最初に編集者さんから書籍のゲラを受け取って、お時間を少しもらって読ませていただきます。その段階で、装丁をイラストにしたいか写真にしたいかなど、作家さんや編集者さんの意向をお聞きします。たとえばイラストなら、僕からイラストレーターさんを4、5名ほどご提案して、デザインの構成と一緒にお出しすることが多いです。

――イラスト発注の前段階からデザイナーが関わっていくんですね

大岡:キャラクター文芸だと最初からイラストレーターさんが決まっていることも多いですが、たいていの書籍や単行本は原稿だけがまずあります。「装丁イラストとデザイン構成を併せて考えてください」という感じですね。作品を読みながら「この雰囲気だったらこの人!」と、お付き合いのある、もしくは新しいイラストレーターさんを編集さんにご提案します。

――表紙のイメージはすぐに浮かびますか?

大岡:第一印象が一番大切だと思っていて、作品を読みながら専用のノートにいろいろと書き留めています。作中におけるキャラクターがどんな人なのか、容姿、素敵な言葉……。あとは「この場所が装丁の絵になるかな」という箇所を抜き出しています。作品を深く濃く読むことが、デザインのおおもとになります。

――これは『わが家は幽世の貸本屋さん』のメモですね

大岡:『貸本屋さん』の場合、著者の忍丸さんから「六七質さんにイラストを描いてほしい」というリクエストがまずありました。僕もどっちかというと人物よりも小説の世界観、物語に出てくる情景を絵にしたかった。六七質さんとは何度かお仕事をしていたので、僕からご連絡をしたら担当してもらえることになりました。

「お作法」をかい潜るおもしろさ

――大岡さんはずっと本の装丁をやりたいと思われていたんですか

大岡:大学時代はイラストの勉強をしながら漫画を描いていたんですが、今の事務所に入社してからエディトリアルデザインに目覚めました。いろんな編集さんが育ててくれたので、その優しさに惹かれて「一緒に歩みたいな」と。装丁はデザイナーだけでなく、編集さん、時には作家さんも一緒に作ってくださる。その過程がすごくおもしろい

――イラストレーターさんとのやりとりはどのように進めるんですか

大岡:「装丁にするならこのシーンがいい」と作家さん, 編集者さんから指定があるとき、僕から指定するとき、イラストレーターさんに出していただくときもあります。おおまかなデザインだけお伝えして、あとはお任せするほうがいい作品ができる気がします。びっくりするようなシチュエーションをイラストにしてくださることが多いです。

――こんな解釈もあるんだ! と驚きがありそうですね

大岡:警察ものや時代もの、ミステリーなど、ジャンルによってそれぞれの様式美、お作法みたいなものがあるんです。その間を上手く潜ってご提案してくださる方がすごく多い。そういうイラストレーターさんとのお付き合いを大切にするためにも、ある程度はお任せすることにしています。モチベーションを上げてもらうことで、作品をいいものにできるなら。

――全体の色味やタイトルロゴを決めるのはラフの後になるのでしょうか?

大岡:ラフの段階で「ここにタイトルを置きたい」とまずお伝えします。文字に縁やぼかしをつけるとイラストが隠れてしまうので、先に。ロゴデザインは、ラフのときは仮で置いておいて、イラストが上がってから何パターンか作って編集さんにお見せします。

――初期にデザインされた装丁で思い出深いものはありますか

大岡:初めて担当した日日日さんの『ひなあられ』ですね。「小説を読むとこんなにいろんなことがひらめくのか」と衝撃を受けて。コミックの場合絵がありますが、小説は自分が想像した先に装丁ができる。無限の可能性があって、病みつきになりました。先ほどお話した「様式美」を越えたところにエディトリアルデザインの美学があると、感じられたお仕事でした。

デザインは作品から力を貰っている

――逆にデザインをしていて大変な部分は

大岡:自分が作品のことを理解していても、イラストレーターさんとのコミュニケーションが上手くいかず、行きたいところに行きづらいことがあります。やり取りの回数を密に重ねて解消していくしかありません。イラストレーターさんが「いいものを描きたい」と思ってくださるように、仕事のしやすさ、例えば極力直しがないようになどはすごく気を使っていますね。

――編集者が作家に対して行うケアに似ていますね

大岡:いいイラストを描いていただくために信頼を築いていくしかないので。本を読者に届ける喜びももちろんあるんですが、好きな編集者さんやイラストレーターさんと一緒にお仕事をする喜びが僕にとっては大きいです。自分一人でやっているというより、皆さんと作っていくことが楽しい。

――作者の方と直接コミュニケーションを取られることはありますか?

大岡:仕事上で直接のやりとりはほぼありませんが、本やゲラを読んだ感想は編集さんにお送りしています。そうすると作家さんから連絡がくることや編集者さんから伝言をいただきます。直にメールを貰うとどのような方なのかわかりますし、自分のモチベーションも上がるので、積極的に感想をお伝えしています。デザインは作品から力を貰っているところがすごく大きい。いろんな感情がわいてくるので、担当する作品を読むのは本当に楽しいです。

――そんな風に言われる本も幸せですね

大岡:デザインの構成は何万通りもあるので、イラストレーションが上がってくると、できればずっと触っていたい。しかし締切の時間もあるので、極力納得できるまでやって、思い通りのデザインになった時が一番うれしいですね。いろんな作品を担当して、いろんな方と出会えるので、日増しに楽しくて仕方ない。土日は「早く明日会社に行きたい!」と思っています。

読みながら自席で泣いてしまうことも

――お仕事以外のインプットはどういう風にされていますか

大岡:普段から本屋さんにはつい行ってしまいます。池袋が近いので、ジュンク堂さんと三省堂さんには毎週絶対行きますね。あとは外から入ってくるものは何でも取り込む。それが活きているかわからないけど、最近は密にクラシックを聴いています。

――ラノベの表紙を描きたい人や、デザイナーをめざす人にアドバイスがあればお願いします

大岡:五感でいろんなものを取り込むこと。あとは、積極的にプロの編集者さんに見てもらうのが一番だと思います。一人ではなかなか成長できないけど、皆さんにチャンスは絶対にあるので、ひとつでも多く描いて見てもらうことが近道なんじゃないかと。漫画やイラストを描いたことがなくても、スケッチブックに思ったことを書き留めておくと、そのうち表現者としてのノウハウが出てくるんじゃないでしょうか。

――大岡さんのお話を伺っていると、作品に感動できる感性が一番大事なのかと思わされます

大岡:作品を読んでいて、物語の起承転結やヤマ場とはまた別に、「ここがどうしても書きたかったのかな」という部分が見えると、それを表現したいなと思いますよね。カバーではできなくても、本文の扉や挿絵で出したいなとか。「この一行のために作品全部を書かれたのかな」という箇所を見つけたときが一番感動するので、毎回それを見逃さず読めるようになりたいと思っています。

――そのための読み方の工夫はありますか?

大岡:時間も限られているので「一冊を何回も」は読めないんですが、「一回を深く」を何冊も読んでいると、見えてくるものがあります。本を読むのに慣れてしまうのではなく、能動的に感動できる部分を探しています。自分の席で読みながら泣いていることもあります。周りに見られないようにこっそり泣いてるのも、ちょっと楽しい時間だったりして(笑)。本が出る前に読ませてもらえるなんて、ありがたいですよね。毎回いい体験をさせてもらっています。

(インタビュー・構成:monokaki編集部、写真:三田村亮

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