創作ハウツー howto

第9回

王位争奪、政略結婚、絢爛華美な宮廷ファンタジー

三村 美衣

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 令和を迎えるにあたって、TVやネットでは退位・即位に関する様々な儀式が中継されているが、ファンタジー好きは「剣璽等承継の儀」を始めとするさまざまな儀式に刺激を受けたのではないだろうか。
 というわけで、今回のテーマは「宮廷/王族/継承」である。宮廷陰謀劇や貴種流離譚や後宮もの、さまざまなアプローチを考えてみよう。

王になるのは誰?

 男系のみか、女系も是とするか、などの差はあるが、現実の王家は王の血筋の者が後継者となるのが普通だ。しかし神や天の意思が何らかの形をとって表される世界であるなら、王は血統ではなく、天命によって決定することもある。流れ星が王の誕生を知らせたり、お告げや占いや預言書で判明したりもする。

 小野不由美《十二国記》では神獣・麒麟が、国や民の望みをくみ国王を選び、アーサー王伝説では、少年が石にささった剣を抜くことでブリテンの王と認められる。「一番美しいものを王とする」と神様が言うのはさすがにおとぎ話的だが、何らかの技能や試験、試合によって王を選ぶこともある。おがきちか『Landreaall』の「円卓」や、ローマ教皇を決定するコンクラーヴェのように、賢者会議や選挙で王を選定するという方法もとれる。もちろん戦いによって勝ち取るという道もある。高野和『七姫物語』では、国家を形成する7つの都市が、それぞれ先王のご落胤と称する偽の「姫」を擁立して権力争いを繰り広げ、その顛末が姫の視点から語られる。

 便宜的に「王」という言葉を使っているが、その立場や権力にもいろいろなケースが考えられる。
 民族・種族や地域や国を統べる長、複数の国家を従える王の中の王、宗教や職能や文化的組織の長や象徴なども王となりうる。王は何を統治しているのか、していないのか王になることによって継承するもの(力や知識)はあるのか。権力の範囲、政治・軍事・司法・宗教・文化に対してどのように関わっているのか。そういった部分から物語を広げて行けばオリジナリティとリアリティのある物語を展開することができるのではないだろうか。

宮廷陰謀劇と内乱

 王位継承や政策をめぐって王族やその取り巻きが権謀術数の限りを尽くす宮廷陰謀劇と内乱は、実際の歴史でも繰り返されている。設定の一部を歴史をモデルにし、現実に即して描くことも可能だ。

 たとえば、ジョージ・R・R・マーティン『氷と炎の歌』は英国の薔薇戦争がモデルであり、裏切りや暗殺や不貞や政略結婚などをこれでもかと詰め込んだ宮廷陰謀劇のショーケース的な作品となっている。登場人物を惜しげもなく殺しまくり、主人公である子どもたちを容赦なく不幸に叩き込む壮絶な内乱に、海の向こうには復讐を誓う流浪の王女と龍がいて、さらに北の異形の種族の侵入というファンタジーならではの要素も盛り込まれている。

 綿密かつ長大すぎて小説はなかなか進まないが、テレビドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』は小説を追い越して最終シーズンに突入した。また田中芳樹《アルスラーン戦記》は、歴史そのものをなぞっているわけではないが、地形や文化や風俗はペルシャ周辺のものをそのまま使用している。

愛と陰謀渦巻く後宮と政略結婚

 陰謀劇を小さな空間に押し込めたのが後宮(大奥)ものだ。後宮はキリスト教的な価値観とは相容れないので、舞台はアジア的な異世界となることが多く、継承は男系男子となる。自分が産んだ男子を王とすることを夢見る女の争いには、外祖父の地位を狙う貴族や後宮に出入りできる男である宦官が絡む。

 中華ロマンスが流行った頃から後宮や女官ものはあったが、雪乃紗衣『彩雲国物語』とTVドラマの『宮廷女官チャングムの誓い』でブレイク、しっとり系のロマンスやイジメが跋扈する女の戦いはもちろん、一芸持ちの女官が政治を動かしたり国王や文官と結ばれるラブコメ系も増えた。

 最近では、兵士あがりの王妃がヒロインの雪村花菜『紅霞後宮物語』や、「皇帝に外戚なし」という法があるために殉死を求められた名門一族の少年が、女装して後宮に隠れ住む後宮サバイバル小説・篠原悠希「金椛国春秋」シリーズ、呪術を使って後宮で起きる様々な事件を解決する烏妃と呼ばれる女性を主人公とする白川紺子『後宮の鳥』など、捻りの効いた作品も登場。人気ジャンルなだけに工夫が必要であり、女の争いや苦悩を味付けに大胆なアイデアを盛り込みたい

 女性向けレーベルで人気の政略結婚ものだが、やはりこれも人気ジャンルなだけにかなりの捻りが必要。政略結婚だけどらぶらぶ、弟の方が好きになった、第3夫人だった、めちゃくちゃ嫌われてる、その程度では筆力があってもなかなかどんぐりの群れから抜けだせない。大国に嫁いだはずが内政ぼろぼろ、いきない夫に死なれて未亡人になり、30ページからは国家再建に乗り出し改革を断行するくらいの展開の速さとスケールになだれ込むような作品も面白い。

英雄文学の原型「貴種流離譚」

 王族テーマとして外せないのが、貴種流離譚だろう。ギリシャ悲劇の『オイディプス』や、日本神話の『スサノオ』『ヤマトタケル』などに始まる貴種流離譚は英雄文学の原型と言われ、今も多くの物語に受け継がれている。主人公は、貴い生まれでありながら、不吉な予言、双子、不貞の疑いなど、さまざまな理由から肉親からの愛を得られず、故郷を追われて流浪の身となる

 その後、各地を転々とし冒険を重ね、試練をくぐり抜けて名声を手に入れる。しかしどれだけ努力しても、愛情によって満たされることがない。宿命や高貴な生まれが生み出すロマンと、報われることのない切なさはいつの時代も読むものをひきつける。栗本薫《グイン・サーガ》、上橋菜穂子《精霊の守り人》をはじめ多くの作品が貴種離譚的な要素を使いながら、独自の作品を作り上げている。ただ、繰り返し使われてきたテーマなだけに、疎まれる理由に捻りを加え、愚直に時間順に語りはじめないなど、物語の発端には工夫が必要だ。

おすすめ宮廷ファンタジー2作品

『氷と炎の歌』ジョージ・R・R・マーティン(ハヤカワ文庫SF)
九つの家が覇権を競う七王国。宰相スターク家の6人の子供を中心に、内戦と北から侵入してくる異形との戦いが描かれる。長大な物語だが、複雑に入り組んだ思惑とドロドロな人間関係、主要登場人物にも容赦ないサドンデスな展開で、読者をぐいぐいとひきこむ。多視点の語り口の巧みさに舌を巻く。
http://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000001869/

『七姫物語』高野和(電撃文庫)
先王崩御によって王座が空席となり、東和を形成する七つの都市がそれぞれ先王の血筋と称する姫を擁立し、王権を握ろうとする。この姫が、ほぼ全て偽物であり、それは全員が承知の上というのが面白い。東和の歴史を塗り替えた時代の転換期が、国家統一を夢見る2人の青年によって孤児院から引き取られ、辺境カセンの姫となった少女の視点から語られる。群雄割拠な状況を、少女ならではの透明な視点と抑えた語り口で描き出す筆に注目して読んで欲しい。
https://www.kadokawa.co.jp/product/200301000225/

(タイトルカット:つのじゅ

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