創作ハウツー howto

第14回

現実にはない障害が立ちはだかる 恋愛ファンタジーの極意

三村 美衣

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恋愛×ファンタジーという幸福なマリアージュ

 ふたりが出会って恋に落ちるが、その恋を試すかのようにさまざまな試練が訪れ、さらにふたりの間に別の人物が割って入って運命の糸が絡まり、そして物語(ふたりの関係)は結末を迎えるというのが、恋愛ものの基本パターンだ。

 昔は恋に障害はつきものだった。家や親や身分が、恋するふたりを引き裂こうとする。ところが個人の自由や権利が向上した現代、モンタギューとキャピュレットだろうが王子と女優だろうと、恋愛は本人同士の意思と努力次第でどうにかなってしまう。

 等身大な青春小説や、ほのぼの日常系、人生の機微を描くリアリズム重視型はともかくとして、世界も命も全てを引き換えにしてもいい!というくらい思いつめた恋愛を描くのはなかなか難しく、その結果、不倫と難病ものがもてはやされることになった。

 しかしファンタジーであれば、場所も、時代も、文化も、自由に設定することができ、そして努力だけでは超えられない障害も設定できる。というわけで今回は、恋愛とファンタジーという、それこそ幸福なマリアージュについて考えてみよう。

等身大でも、あたり前でもない、ふたり

 一般小説であっても恋に落ちるのが「男女」とは限らないが、ファンタジーの場合は人間同士とも限らない。動物を妻に迎える「つるの恩返し」や、天女が相手の「羽衣伝説」、生贄として龍に嫁ぐ「夜叉が池」など、神話や伝承には人の別の種の恋愛や結婚を描いた物語が数多く存在する

 古典では、見てはいけないものを盗みみたり、開けてはいけない扉を開けたりと、契約をやぶってしまったがために去られたり、婚姻から逃がれようとして村が滅ぼされたりするバッドエンドものが多いが、ふたりの努力や愛や勢いでそれをさらにハッピーエンドに反転させることもできる。最近では新海誠『天気の子』がそういった「異類婚姻譚」のヴァリエーションとして記憶に新しい

 ロマンス小説界では、吸血鬼、狼男、ミイラ男、ゾンビなど異形との恋愛を描いたパラノーマル・ロマンスが一大ジャンルを形成している。人気があるということはつまり読者が多いということだが、同時に読者の目も肥えて厳しくなる。その種族が辿った歴史、能力、社会の有無、倫理観についてあらかじめよく考え、設定の奥行きの深さで他との差別化を図りたい

乗り越えるべき障害を盛り込もう

 ドラマチックな恋愛小説には、ふたりを引き裂こうとする障害がつきものだ。障害が燃料となって燃え上がると言ってもいい。異種族間の恋愛には、社会や家族の反対はもちろん、文化的、生物学的な差異も、2人が乗り越えなくてはならない大きな壁となる。国際結婚あるあるエッセイがたくさん出版されているが、なんといってもあれは人間同士の話だ。

 異種族であればそのレベルではおさまらないギャップが存在する。中でも不死やアンデッドとの恋愛を描くときには、死や恐怖や喜びといった恋愛や生きることの根底を成す感情が共有できないということを意識したい。『指輪物語』で、人間のアラゴルンと結婚したエルフのアルウェンは、アラゴルンの死に直面してはじめて寿命というものの意味を知る。

 個の尊重が恋愛小説をつまらなくしてしまったのだとしたら、個の自由を奪う設定を盛り込めばいい。時代や国や文化が異なれば、国益、為政者の責任、神との契約、信仰、そういったものの重さがかわる。戦勝者による略奪結婚が行われたりするような、力の強いものに蹂躙される世界を設定することも可能だ。

 現代とのギャップが大きいだけに、現代的感性を持ち込めるタイムトラベルとヒストリカル(歴史)要素を組み合わせるのも面白い。

 タイムファンタジーではふたりの間に時代や時の壁が立ちはだかる。タイムトラベルテーマの回でも書いたが、ループものや、主観的時間がシャッフルされるタイプなども含め、時間ものは恋愛との相性が抜群だ。

恋愛を最高にドラマチックにする恋敵という存在

 ドラマチックな恋愛ものに欠かせないのが、ふたりの間に割って入る第三の人物、つまり恋敵だ。読者がうっかりそちらに共感を覚えてしまうような魅力のある恋敵を登場させたい。

 王や魔法使いなど、ファンタジーであればこの恋敵をとてつもない強キャラにすれば、恋人のいる町娘に悪代官が横恋慕する時代劇の黄金パターンを神々しくスケールアップさせることもできる。このお代官様が悪ながらとてつもない魅力をもっていれば、悪徳商人が借金の証文を持ち出すまでもなく町娘の心が揺らぐかもしれない。また神の力や魔法によって何の苦も無く娘を従わせてしまうかもしれない。

 後宮や複数の配偶者が持てる世界であれば、恋敵の数も増えるし、その関係性もかわる。さらに恋敵の背後には、政治や権力闘争が介在する。本人たちがどれだけ純粋に恋をしていようと、同時に道具でもあるし、生まれ育った環境によっては、有能な道具となることが当たり前にもなる。
恋敵の方にもまた、視点をかえれば主人公になれるくらいのドラマを持たせれば、物語に厚みが出る。
 いくつかのパターンを紹介したが、ファンタジーのあらゆるサブジャンルと恋愛は同居可能だ。障害と恋敵、この2点を意識した面白い恋愛ファンタンジーを待ってます。

おすすめ恋愛ファンジー3作品

紅玉いづき『ミミズクと夜の王』(電撃文庫)
魔物の森にやってきた少女は、魔物の王に自分を食べてくれと懇願する……。少女は額に数字の焼き印を押された元奴隷であり、喰う/喰われるという言葉でしか関係性を理解できない。その願い事は叶えられないが、やがて娘と王の間に絆が芽生える。寓話の形を借りて、尊厳を奪われた少女の自己回復を描く珠玉のファンタジー。
https://dengekibunko.jp/product/mimizuku/312122100000.html

柏葉幸子『王様に恋した魔女』(講談社)
薬草を煎じたり、まじないをしたり、赤ん坊をとりあげたり人々の生活を助けてきた魔女。ところが国が乱れ、魔女が戦の戦闘に立つようになると、同時に魔女は恐れられ、魔女狩りがはじまった。迫害を受けながらも、国を守り、人々を助け、そして王様とも恋をする。そんな魔女たちのエピソードを集めた短編集。総ルビの児童書だが、大人にこそ読んで欲しい一冊。
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000189983

ゲイル・キャリガー《英国パラソル奇譚》シリーズ(ハヤカワ文庫FT)
人類が吸血鬼や人狼やゴーストと共存するもうひとつのヴィクトリア朝時代。人間ながら異界族の能力を消すことのできる“ソウルレス”のヒロインが、パラソル片手に吸血鬼やゴーストと戦い、そして人狼との恋にも落ち、ついでに英国の諜報員にもなってしまう。ユーモラスでサスペンスフルなパラノーマルロマンスのシリーズ。
https://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/70532.html

(タイトルカット:今井琢)

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