創作ハウツー howto

#9

「構成」って何ですか?

王谷 晶

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残暑お見舞い申し上げます! 王谷晶である。突然だが夏なのでカツカレーの話をしたい。諸君の目の前にも一皿のカツカレーがあると想像してほしい。ライス、カレー、カツ、そして皿の隅には福神漬とラッキョウが乗っているという黄金の布陣だ。

一口にカツカレーと言っても、人の捉え方はさまざまである。あくまでカレーがメインでありカツをサブ要素と考えるか、カツがメインでカレーを下支えと考えるか。いや自分はラッキョウと福神漬を堪能するためにカツカレーを食うんですという過激派も少数だが存在するだろう。そしてこの各人の「カツカレー観」により、おのずと食べ方も変わってくる。

カツはカレー&ライスと共に均等に食べるか、ルーのかかったカツのみを堪能するターンを作るか、ラッキョウはどの段階で投入するか、他にトッピングを足すか、最後の一口は何でフィニッシュするか、水の采配はどうするか……。どのようにスプーンを運べば自分にとっての最高のカツカレーが味わえるか、無意識に頭の中で計算しているはずだ。

構成をすることで見えてくる全体

構成という作業は、この「カツカレーどうやって食べるか計算」に近い。自分の小説のココをクライマックスにしたい、ココを一番読者に伝えたい、このキャラを際立たせたい、こういう雰囲気にしたい……そういう思惑を成功させるか如何は、文章だけでなく構成の力に依るところが大きいのだ。
カツをクライマックスとし後半を大きく盛り上げたい場合は序盤にルーとライスのみのシーンなどを入れてメリハリを出す必要があり、淡々と続くカツとカレーとライスの日常を感じたい場合はそれぞれ均等に食べ続けるほうがよい。同じカツカレーでも構成を考えるだけでまるで雰囲気が違ってくる。

小説に限らず漫画や映画でも「構成は大切」とよく言われるが、構成の効果が見て取れるのは細部というより全体だ。ゆえにパッと見パッと読みではその出来不出来が分かりにくいし、いい構成悪い構成に気付くためにも経験や勉強が必要だったりする

なので書き上げた小説を読み返して妙にテンポが悪い、思ったように盛り上がってない等「どこがどうとはハッキリ言えないけどなんとなく面白くない」と感じた場合は、まず構成を洗い直したほうがよい。
その後一回も出てこない場所や人の説明・会話に無駄なページを割いていないか、主人公が登場したり事件が起こるまで時間がかかり過ぎていないか、重要なシーンばかり続けて書いてメリハリを失っていないかなどなど、自分なりのチェックポイントを決めて小説全体を俯瞰するのだ。

「どうしてつまらなく感じたのかメモ」を作ってみる

構成力を鍛える、有用かつ底意地の悪い方法がひとつある。「つまんない作品をツッコミ入れながら読む」だ。自分が今まで読んできて一番つまらなかった本を、苦痛をこらえながらもう一度読み、「なんでつまらんと思ったのか」をメモに書きしっかり言語化する
簡単に言うとネチっこいアラ探しだが、これは本当に勉強になる。なにせ他人の作品だから、しっかり距離を置いていくらでもツッコむことができる。人は自分の鼻毛には気付かなくても他人のフケには速攻で気がつく生き物。この作業で得た「どうしてつまらなく感じたのかメモ」を自作に活かし、同じ轍を踏まないようにするのだ。
ちなみにこの方法は諸刃の刃で、続けていくうちに性格がどんどん悪くなるという副作用がある。つまり構成力に優れた作家はだいたい性格が悪いということになるが、文字数の都合もありこの先はノーコメントである。

構成のやり方は百人百色で「これが正解」というものはない。エクセルや専用アプリなどで入力・管理するデジタル派もいれば手書き派もいる。
参考までに、私はノートに手書き+ふせん派である。まずノートを見開きにして、左ページに三つ、右ページに三つくらいに分けて箇条書きで簡単なあらすじを書く。これが物語の大まかな道筋だ。そして大きめのふせんに「どうしても書きたいシーン」や「とりあえず頭に浮かんだシーン」を一つずつ簡単に書いて、このあらすじの間に貼り付けて並べ辻褄が合うか面白そうな流れか確認する。繰り返していくうちに「このシーンいらんな」とか「ここもうワンクッション日常シーンを入れて“溜め”を作ったほうがいいな」とか「ここからここまで移動するの無理あるな」とか、問題点やアイデアがいろいろ出てくる。そもそものあらすじを変えることもある。だいたいこれだなという流れが決まったら、それをまとめてテキストファイルで打ち込んで、プロットとして保存しておく。あとの細かい調整はテキストファイル上で行う。

逆回転の構成で作られた物語

構成の力で世に打って出た映画がある。『ダークナイト』『インセプション』などを監督したクリストファー・ノーランの『メメント』だ。長編二作目というノーラン監督最初期の作品だが、これがいきなりアカデミー賞オリジナル脚本賞と編集賞にノミネートされた。しかしそのストーリーは「妻を殺された男が犯人を探し出し復讐を果たす」という、人類誕生以来五億本は作られていそうな極めてシンプルなもの。それがなぜ驚愕と賞賛をもって迎えられたかというと、この映画、逆回転の構成で作られているのだ。

映画は主人公のレナードが男を射殺したところから始まる。これは時間軸上では一番最後のシーンで、そこからだいたい十分刻みで話が巻き戻っていくのだ。レナードは犯人に殴られた後遺症で「記憶が十分しかもたない」という障害を持っている。
最後まで観ると、なぜレナードが冒頭の男を殺したのか、そもそも男は誰なのか、復讐は成功したのかという謎が解けるようになっている。

面白いのはこの話、時間軸通りにエピソードを並べると何の謎もないのだが、逆、つまりオチから見ていくと途端にどこへ転ぶか分からない謎に満ちた物語になるのだ。ややこしい映画に思えるかもしれないが、集中して観ればちゃんと全ての要素が頭に入るようになっている。「おもしろいほうの参考作品」として、ぜひ構成に注目して観てもらいたい。

(了)

(タイトルカット:16号

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