創作ハウツー howto

#10

「取材」って何ですか?

王谷 晶

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すっかり秋めいてまいりました。王谷晶である。尺の都合でサクッと本題に入るが今月は「取材」の話である。小説に取材なぞ不要だ、俺は想像力にのみ頼って作品を作り上げるという猛者もいよう。実際プロでもそういう方針で創作している作家はいる。が、何においても知識というのは邪魔になるより役立つことのほうが多い。特に長編小説は下調べをしっかりしておけば、途中でネタに詰まったり話の行き先が迷走したときに体勢を建て直しやすい

なんでも食べ物に例えるのもアレだが、取材は出汁のようなものである。出汁がなくても作れる料理はたくさんあるが、出汁があればさらにレパートリーは広がるし味もよくなる。一度しっかり出汁をとっておけば、他の料理にも使うことができる。というわけで、取材というのはやって損はない工程なのだ。

現地取材は土地だけでなく、人にも注目する

取材に決まったやり方はないが、私は以下の三点を基本方針に据えている。

1・行ける所にはなるべく行く
2・読めるものは読んでおく
3・インターネットと公共施設を使い倒せ

1の「行ける所にはなるべく行く」。これはもう読んでそのままだ。舞台、または舞台のモデルにしようとしている場所が日帰りで行けそうなくらいの距離だったら、絶対に行って歩き倒して観察しておいたほうがいい。できれば一日時間を作って、昼間と夕方~夜の人の流れや雰囲気の違いも見るのが吉。そして可能ならその土地の飲食店に入り、周りのお客さんの会話を聞く。知らない人間にいきなり話しかけるのが苦手でも、ただ聞き耳を立てることはできるはず。思わぬ地元の情報が聞けることもあるし、そうでなくても、どんな人がその土地で生活しているのか雰囲気の一端でも掴むことができる。

ちなみに東京の巣鴨と池袋をメインの舞台とした『探偵小説(ミステリー)には向かない探偵 』という小説を書いた時は数日かけて巣鴨・池袋周辺や荒川沿いを歩き回り、年季の入ってそうな喫茶店や定食屋、スナックに入店し、地元のお父さんお母さんの世間話を聞いたりカラオケを一緒に歌ったり、怖いくらい料金の安いネカフェに泊まったりしてどっぷりとその土地に浸って過ごした。おかげで街を駆けずり回る探偵の描写はけっこうリアルにやれたんではと自負しているが、取材が本文に生かされているかどうかはぜひ拙著を読んでチェックしていただきたい。

思わぬ知識がのちのち役に立つ

2「読めるものは読んでおく」。これもそのままだ。ネットで「(調べたいこと) 本」とかのワードで検索し出てきた本をとりあえず片っ端から読もう。中にはしょうもない本もあると思うが、乱読すればするほどのちのち思わぬ場面で思わぬ本の知識が役に立ったりする。個人的には、資料にする本は電子書籍よりフセンを貼ったり書き込みができる紙の本のほうが使い勝手がよいと思う。

資料代、取材費が工面できない、読みたい本が絶版本ばかりという場合は3の「インターネットと公共施設を使い倒せ」でカバーする。図書館は全ての物書きの友である。また、資料があるのは図書館だけではない。市区町村によっては歴史博物館のような施設があったり、公民館にその土地の年鑑や地図が保存されている場合もある。そういう施設はほとんどが無料~数百円で入れるはずなので、懐が寂しくてもその土地について調べることが可能だ。

書きたい舞台がかなり遠かったり海外だったりする場合は、Googleストリートビューでオンライン街歩きをしてその土地を観察しよう。ストリートビューのいいところは、観光ガイドなどには絶対載らない普通の住宅街やなんもない田舎の景色、裏路地まである程度見られるところだ。治安が悪そうで踏み込めない場所もバーチャルなら安全に歩ける。さらにそこで生活している人のSNSやブログを検索し、地元民から見たその土地の姿などをチェックすると情報がより三次元的になる。

取材はなぜしたほうがよいか。小説というのは乱暴に言うと「見てきたようなウソをつく」作業である。そのウソがリアルであればあるほど、読者も作品に入り込みやすくなる。リアリティを生み出すためには、書き手が資料を実際に見て、触れて、調べて、ホントの事をしっかり消化する必要がある。ホントを知らなければうまいウソはつけないからだ。

「THIS IS 取材」と呼びたくなる本

とは言うものの、やっぱり取材ってどんな風にメモを取ったりどこを中心に見ればいいのか分からない、という人もいるだろう。そんな時にヒントになるのが今月の一冊、妹尾河童著『河童が覗いたニッポン』。彫師、刑務所、CM撮影現場など著者が興味を持った日本各地の場所・物・事について、緻密なイラストと文章(文字もオール手書き!)で綴られている。これは本一冊がそのまま取材の結晶となっている、THIS IS 取材と称したいような凄い本だ。とにかく細部までぎっちり描かれたイラストと添えられた解説の密度に圧倒される。文章も面白い。集中して物事を観察するということそのものの喜びに溢れている。こんなに精密なイラストを取材先で書くのは普通の人間には無理だが、今はスマホでなんぼでも写真が取れる。写真とメモを組み合わせて取材ノートを作れば、この「覗き」にやや近づけるかもしれない。

最後に、自分の足でよその土地に行き取材をする場合、当たり前だが身の安全には十分気を付けてほしい。知らない土地は足を踏み入れていい場所悪い場所が分かりにくいし、そのへんで写真を撮ったりメモを書いていれば場合によっては警戒されてしまうこともある。通報されたり職質された場合は、変なウソはつかずに素直に小説の取材だと言おう。またあまり人気のない暗い道や怪しすぎる店には一人では入らないように、同行者を募るのもテである。大切なのは取材したものを本文に活かすことなので、取材に熱中するあまりいらんトラブルを抱え込まないように注意したい。ちなみに私も知らないうちに私道に入ってしまい大目玉を食らったことがあります。気をつけよう。マジで

(了)

(タイトルカット:16号

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