創作ハウツー howto

#11

「短編・長編」って何ですか?

王谷 晶

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読書の秋! 王谷晶である。ところで諸君ってどこ住み? 今付き合ってる人とかいる?てかLINEやってる? 
いきなり口説いてしまって申し訳ない。しかしこれは商業作家の本質を簡潔に説明した行為であることをご理解いただきたい。商業作家は女も男も全員ジゴロ、それもモッテモテのジゴロを目指さなければいけないのである。

小説は出会って3ページが勝負

物書きには書く自由があるが、読者には「読まない自由」がある。私だって本音を言うなら世界全人類とそのペットに一冊ずつ拙著をプロパーで購入させ椅子に縛り付けて強制的に読ませたい。しかしそういうことはできないので、「なんとかして自発的に購入し読んでいただく」というゴールを目指し頑張っている。そのためにはただ好きなように、もしくは適当に書いていたのでは野望は達成できない。仕事や学業や育児や家庭生活やソシャゲやNetflixなどで多忙な現代人の時間をなんとか割かせるため、全力の全身全霊でもって読者を口説く必要があるのだ。

宣伝などの作品外でやるアピールはひとまず置いて、今回は小説本文での口説き方にスポットを当てる。ポイントは「出会って3ページが勝負」。エンタメ小説はまだるっこしくてはいけない。話がスタートしたらモジモジしてないでさっさと死体を転がすなりビルを爆発させるなりスケベなハプニングを起こすなりギャグを入れるなりのアクションをかまし、読者に「この人面白いかも……ちょっと付き合ってあげてもいいかな?」と思わせることが肝心なのだ。

以前、某エンタメ系小説新人賞の長編部門の下読みをやったことがある。応募者皆もちろん入魂の一作を投稿してくるのだが、練りに練った設定、世界観、イカした主人公の人物像などを伝えたいパッションが溢れすぎて、冒頭の十枚くらいをひたすら「説明」で潰してしまっている作品がいっぱいあった。下読み人はそれでももちろん最後まで読む。仕事だからだ。でもプライベートでそういう前置きが長大な作品を見かけたら、好きな作家のものでもない限り、まず買わない。
無名の作家、新人作家は読者にとって赤の他人だ。赤の他人が出会い頭にいきなりべらべら己の出身地や好きな食べ物などについて一方的に喋りだしたら、それにキュンと来るか? 来ない。来ないのである。自分のことばっか話してないでアンタに何ができるのか、アタシとどうなりたいのか、アタシをどう楽しませてくれるのかさっさと教えてよ、と思うだろう。

短編と長編のアプローチの違い

さてここでやっと表題の「短編・長編」だが、そういう気まぐれ子猫ちゃんな読者の皆様に読んでもらうためのアプローチは、短編と長編では若干使うテクが変わってくる。出だしでハートを掴まなければいけないのは同じだが、長編は遠投の伏線を張ったり話の流れの中で登場人物や世界観を深掘りしたりと、ある程度じっくり時間とボリュームを使って口説くことができる。サスペンス+ミステリ+ハードボイルドなど複数の要素を取り入れてより多くの子猫ちゃんにリーチをかけたり、山場を何度も作ってハートに複数回アタックすることもできる。

一方短編。名の通り短い小説である。定義は明確ではないが、おおむね数文字~4万字(原稿用紙100枚分)以内くらいの小説を指す。長編に比べると格段に口説ける時間が短い。チャンスが数分しかないのに、物陰からじっと見つめたり友達にそれとなくいい感じの噂を広めてもらったりというロングスパンな手段を取っていては、求愛は成功しない。読者は通り過ぎていってしまう。目が合ったら即「好きです! 付き合ってください!!」と本題をかましていかないと、こちらの気持ちは理解してもらえない
長編のアプローチタイムが3ページだとしたら、短編は最初の3行くらいでグッと気を引かないと最後まで読んでもらえないくらいに考えたほうがよい。導入はソリッドに、前置きをできるだけはぶいて、特に出だしの一行のインパクトを際立たせ、誰が何をするどんな話なのかをスパッと見せよう。

「まるっとカット」で読み返してみる

なんなら長編でも短編でも、一旦書き上げた原稿のアタマ10%くらいをまるっとカットするくらいの勇気を出そう。もしカットしても話が混乱しないようだったら、それは最初から余計なアタマだったのだ。恋は素早く。とにかく読者には迅速に気持ちを伝えるのが肝心。てれんてれんした叙情的な書き出しは売れっ子作家になってからいくらでもできる。キャリア若造のうちは出し惜しみしない。モジモジしない。この小説がどれだけアナタを楽しませるのか今ここでお伝えしますからちょっとお時間いいですか? ね? ちょっっとだけ! 1分でいいから! いやいやいや30秒! くらいの気持ちで、とにかくスピーディに、勢いよく、真剣に口説いていこう。

今回のレコメン本は二冊。同作家の短編と長編をチョイスした。私が最も敬愛している作家の一人、平山夢明先生の著作である。1冊目の『瞬殺怪談』(竹書房ホラー文庫)、これは長くても2ページほどの超短編ホラーのみを収録したアンソロジーなのだが、中でも平山先生の作品『出会す』は、なんと1行。1ページとちゃいますよ。句読点含めても全部で25文字のハイパーソリッド短編怪談なのだ。しかもこの25文字でしっかり怖い。問答無用で読み手のふところに飛び込んできて、一瞬でハートをかっさらっていく。匠の技である
対する大藪賞受賞長編『ダイナー』は、ショッキングなオープニングから流れるようにじっくりと、主人公オオバカナコがどうしてこんな状況に陥ったのかを描いていく。10ページも読めばもう心にカナコが住みはじめ、その運命を追いかけるために読み続けずにはいられない。文庫にして500ページ超の物語の最後の一瞬まで気を抜かせないストーリーテリングと文体の強さに、ぜひ思い切り口説かれてみてほしい。

(了)

(タイトルカット:16号

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