創作ハウツー howto
2019.09.12

#21

「読者受け」って何ですか?

王谷 晶

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それが分かれば苦労はしないんだよなあああ……! 王谷晶である。のっけから身も蓋もない叫びで申し訳ないが、ホント、それが事前に分かってたらマジ作家の苦しみの85%くらいは消滅するのでは……? というわけで今回は「読者受け」のお話である。「作家攻め」とかそういう話ではないのでそれを期待した諸君は一度ご着席願いたい。

プロも何がウケるかを考えている

プロもアマチュアもジャンルを問わず、多くの創作家は大なり小なり「何を作ったらウケるか、どうすればウケるか」を考えていると思う。作ったからには見てもらいたい。見てもらうからには少しでも多くの人に見てもらいたい。多くの人に見てもらったからには、好意的な感想がほしい。しごく当たり前の欲望であり、プロならここに「収入」という現実がドカ盛りされるので、さらに「ウケたい」という欲は膨らんでいく

本題に入る前にちょっとだけ脱線させてもらうと、以前も書いたが私のキャリアスタートはエロゲーのシナリオライターである。その後乙女ゲー、ソシャゲとシナリオ関連の仕事をいくつか請負い、ゲームのノベライズ、電書オンリーのライトノベル、ライト文系レーベルでの書き下ろしと進んでいく。#17「『エンタメ/純文』って何ですか? 」で書いたザックリ分類に当てはめると、バリバリのエンタメ方面の書き手だ。

で、これが、あんまりウケなかったんですよねえ……。謙遜とかではなくマジで。編集者や同業者のウケはまあまあよかったのだが、肝心の読者には広く受け入れてもらったとは言い難い結果しか残せなかった(そんなときの作品を気に入ってくれた読者の方には深く感謝しております)。読み手としても書き手としても純文よりはエンタメ方面にずっと親しんできただけに、そのジャンルでヒットを飛ばせないのはキツかった。なんせ、その時の私は全力で読者にウケるもの、喜んでもらえそうなものを考えて考えて狙って書いていたからだ。

必死に読者ウケを狙った苦い経験

読者ウケとは一種のマーケティングリサーチである。当時私はジャンルやレーベルごとにターゲットを想定し、そこで流行している作品をチェックし、何度もネタ出しをしては必死に読者ウケど真ん中の球を投げようとしていた

分析の結果そのものが間違っていたとは今も思わない。同時期に出た近いモチーフやテーマの作品はヒットしてるのだ。腕前や才能も関係はしていただろう。しかし文章力や構成力に関しては自分で言うのもなんだがド下手とかではない。まあまあだ。売れなかったのには別の理由がある。しかしその原因を突き止めることができないまま、廃業寸前まで仕事は減っていった。

しかし最後っ屁のつもりでエンタメ性もマーケティングも全部放り出して筆の向くまま気の向くまま書いた短編小説集が初重版、自分内最大ヒット作となり、そのままなんとなく「純文寄りエンタメ作家」みたいな立ち位置をうろうろすることになって今に至る。あれだけ読者の事を考えて書いた小説が一度も重版にならず、読み手のことをほぼ無視して勢いのまま書きまくった小説がウケたのだ。嬉しかったけど、若干むなしさも感じた。

読者ウケを探り出すマーケティングリサーチはやめたまえ

諸君もこのような事案に悩んだ経験はあろう。今はまだ経験していない諸君も、何かを作って発表し続けていけば必ずこの問題にぶち当たる。投稿サイトで人気のテーマを書いているのにぜんぜん伸びないとか、流行のものと自分の書きたいものがかけ離れているとか。ウケてるものと書きたいものが違っているとか。つらいよなー。好きで始めたことなのに、つらくなってしまうのは悲しい。

そこに待ち受けているのが落とし穴だ。www.落とし穴.comだ。今はネットで作品を発表し、読者ともSNS等でリアルタイムにフラットにコミュニケーションがとれる時代。そして読者ウケに悩む書き手はあかん穴にハマりこんでしまう。「読者の意見を聞く」という穴に。マーケティングリサーチし読者ウケを探り出す行為を始めてしまう。悪いこたいわん。やめたまえ。その行為のほとんどは成功しないし、成功しても諸君の物書きとしての腕前を鈍らせる麻薬のようなものなのだ。

物書きは、特に商業の物書きは読者を喜ばせるために仕事をしている。しかしそれは読者に奉仕するという意味ではないのだ。汝、読者を愛せよ。しかし媚びるべからず。読者の顔色を伺いだすと、九割の書き手は迷走して話がつまらなくなっていくからだ(私含む)。話がつまらなくなればせっかくの読者も離れていく。後には迷える物書きが荒野に残るのみだ。

読者はありがたい。本当にありがたい。読んでくれる人がいるから書き手は存在できる。しかし、読者は一緒に物語を作る相手ではない。その作業は自分一人、もしくは編集者とだけ行う秘めやかな行為だ。寿司屋がカウンターの中に客を入れて寿司を握らせ、それを売り物として出すか? そんなことしたら失礼の極みだろう。創作も同じである。読者を愛し、尊敬しているからこそ、作業場の中には立ち入らせない。読者ウケを考える時間があったら、何よりも自分にウケて自分がサイコーだと思える物語を書こう。それを出せば、それが好きな人が集まってくる。

誰かの顔色を想定すると迷子になる

大丈夫、どうせ「万人にウケる」なんてことは神様だって無理なのだ。世の中には無神論者もいっぱいいる。どんなに大ヒットしている作品でも、世界規模で見りゃ興味ない人のほうが多い。まず自分にウケることを考えよう自分が楽しければ、アイデアも湧いてくるし文章も出てくる

誰かの顔色を想定しながら書くのは、目を閉じたまま迷路を歩いているような気分だ。自分がどこにいるのか、一歩先に道があるのか壁があるのか、まるで分からず不安になる。そんな状態で書いたもんが面白いはずがない。目を開けよ。読者ではなく己を見つめよ。そして書くのだ。楽しみながら一文字一文字。

今回のおすすめ作品は『プロデューサーズ』。生き馬の目を抜くニューヨークのショウビズ界で、キャリアと金策の行き詰まった舞台プロデューサーと小心者の会計士が出資金詐欺をするため「絶対に観客ウケしない失敗作」を上演しようとする。最低の脚本と最低のキャストと最低の衣装を選びに選んで、絶対に誰にもウケないように努力して細心の注意をはらって作った最低ミュージカルのはずだったのに、神のいたずらか悪魔の呪いか蓋を開けるとその願い虚しく……というお話。

観客ウケも”ウケなさ”も狙ったとおりにはなかなかいきませんねという、改めて身も蓋もない創作の真理を垣間見せてくれる。

(タイトルカット:16号

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