創作ハウツー howto

#2

「リアリティ」って何ですか?

編集 ミヤケル

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
画像

「一人暮らしの男 (16)が、血の繋がらない小学生の女の子(9)と二人っきりで同居する」−−

 現代の日本を舞台にした場合で、この設定に説得力を持たせることのできる理由を思いつくでしょうか?
 ちなみに二人の間には血縁もありません。監禁や洗脳など犯罪的な要素はなし。女の子はちゃんと学校に通っています。両名ともご両親は健在で、絶縁状態ということでもありません。

 ……。 

 普通に考えたらありえませんよね?
 そんな、不可能を可能にした作品のアニメが放映されています。
 『りゅうおうのおしごと!』という作品です。

 原作はシリーズ累計100万部を超える大ベストセラー小説で、『このライトノベルがすごい!』で2年連続第1位を獲得した人気作。
 では、このありえない状況に説得力を与えて、多くの読者に支持された原因はなんなのでしょうか?

 答えは「将棋」というテーマ−−。

 正確にいうなら、作者である白鳥士郎氏による綿密な「将棋への取材」=「将棋への理解」によるリアリティではないかと思います。
 先に述べておくと、筆者は大の将棋ファンです。実際に指す(打つではない!)だけでなく、棋士の書いた本を読むのも好きです。
 この作品には、そんな私が思わず唸ってしまう絶妙な設定が随所に仕込まれています。

事実は小説よりも奇なり、に追いつく細部を

 まず、将棋には「内弟子」と呼ばれる独特な制度があります。
 「内弟子」とは、師匠の家に住み込んで、昼夜将棋を学ぶ弟子のこと。
 時代の流れで最近はこの制度も廃れ、ほとんど見られなくはなりましたが、現役の棋士の中にも内弟子を体験した人はいます。

 そんな将棋界ならではの制度を巧みに組み込んだのが、『りゅうおうのおしごと!』なのです!

 『将棋界の最高位である”竜王”のタイトルを持つプロ棋士・九頭竜八一(16)の家に、ヒロインである雛鶴あい(9)が押しかけてくる。あいは才能を認められて内弟子として生活することになった』

 これが冒頭の問いかけへの解答となるわけです。

 もちろん、物語の中でも内弟子として認められるまでに、一山も二山もあります。しかし、ヒロインである雛鶴あいの才能の輝きによって、将棋を知っているほどにこのシチュエーションに納得させられてしまいます。
 初心者であるはずの彼女が見せる、規格外の終盤力(=王様を詰ます演算力)。その迸る才能がどこまで伸びていくのか……ただの将棋好きとしても大いに興味を惹かれる描き方をされています。
 (ちなみに”16歳の竜王”もだいぶありえない設定かと思いましたが、藤井聡太さんの活躍のおかげで違和感がなくなりました。事実は小説より奇なりです。)

 つまり、どんな状況であっても、作者が細部まで考えておけば、リアリティは生まれるのです。

 逆にいうと、主人公の職業をなんとなくのイメージだけで決めていては、説得力は生まれません。どのような業務を、どんな会社で、どんな意識で働いているのかまで、実際に考えて欲しいのです。
 たとえば”社長秘書”という職業であるなら、他の人が知らない「秘書ならではエピソード」があるだけで、読者は興味を持って読み、いつの間にか作品の世界に入り込んでいきます。

「9歳は年を取りすぎ」!?

 題材に対する理解は、シチュエーションにリアリティを与えるだけではありません。
 他の作品にはない独自の発想までも、もたらしてくれます。

 例えば、ライトノベルの世界には「小学生は最高だぜ!」という有名な言葉があります。
(ロリコンというわけではなく、何でも吸収できる素晴らしい年齢という意味です……)
 ところが、この作品はさらに上をいっていて「9歳は年を取りすぎ」という表現が原作小説に出てきます……。

 思わず「ふぇ?」となってしまいますよね。

 一般的にサッカーなどのスポーツは、体格の都合で10歳ごろから本格的に始めることが多いと思います。9歳から何かを始める、というのに「遅い」イメージはありません。

 しかし、将棋のプロになる人の多くは、あの藤井聡太さんのように5〜7歳ごろからに始めています。
 将棋は早く覚えるほど良い、というのが業界の常識なのです。
 この作品のヒロインである雛鶴あいが将棋を覚えたのは9歳。つまり、すでに年齢を重ね過ぎているというわけです

 将棋というフィルターを通すことで、先行する作品のパワーワードを上回る。しかも、その世界の厳しさまでも表現しているのです。

 さらに、この作品には個性的で魅力の溢れるキャラクターがたくさん登場します。

 例えば、『マントを羽織った厨二病』なライバル棋士・神鍋歩夢。
 「こんな奴、いねぇよ!」という如何にもライトノベル的な設定ですよね。
 ところが、この『マントを羽織る』は、現役のプロ棋士(しかも名人)の私服が元ネタだったりするのです……。

 他にも数えきれないほどの、プロ棋士(や夢破れた人)たちの”伝説”やエピソードがキャラクターに反映されています。

 現実ではありえないような突飛な行動や設定であっても、実は本当にあったことが基になっているのです。その対象に対する理解=愛情が、『りゅうおうのおしごと!』のキャラたちにリアリティを与えて、活き活きと動かしているのだと思います。

オリジナリティの鍵は”時代性”と”人間性”

 世の中には物語が溢れています。
 あなたが「自分のため」だけに書くのではなく、多くの人に作品を読んでもらいたいと願っているのなら、他の作品と差別化する必要があると思います。
 ”面白いラブコメ”を書けたとしても、それはもう古今東西に溢れてしまっているのです。
 あなたの物語を選んでもらうには、そこに何かしら”リアリティ”を伴う”新しさ”が必要になります。
 では、どうすればそれを獲得できるのか?

キーワードの一つは、”時代性”だと思います。

 新しい文化や価値観が主題であれば、過去の作品と簡単に差別化ができます
 テレビドラマが社会問題をテーマにすることが多いのはそのためです。

 もう一つは、あなたの”人間性”ではないでしょうか。

 他の誰でもないあなたが体験したことや、出会ってきた人、大好きな物――
 そういった、他人が真似できない自分だけの想いこそが、他の作品とは違うリアリティを生むのだと思います。

 今回、取り上げた『りゅうおうのおしごと!』には”愛”が溢れています。
 作者は文献を読み漁るだけでなく、自腹で各地の将棋関連イベントに参加したり、プロ棋士に取材したりと、労を惜しむことなく”将棋”というテーマに向き合いました。
 そこに自分の秘めてきた想いや、これまでの経験を混ぜ合わせることで、見事に作品へと昇華させたのです。
 エンタメにありがちな”天才”の活躍だけでなく、”凡人”の努力にも目が向けられているのも、作者の真摯な人間性の現れのように思えます。

 自分を曝け出すような、あなただけの物語を紡いでみてください。
 やり過ぎくらいが、実はちょうど良いのです。

(タイトルカット:16号

この記事への感想・コメントを送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

※お送りいただいた感想・コメントは monokaki 編集部に届きます。このページには表示されません。
※感想・コメントへの返信はしておりません。個別のお問い合わせはこちらまで。

↑↑