創作ハウツー howto

#8

「ネーミング」って何ですか?

王谷 晶

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書いてますかー! 原稿があればなんでもできる! 王谷晶である。
突然だが諸君は世界地図を開いて「キンタマーニ高原」や「エロマンガ島」を発見し衝撃を受けた経験はないだろうか。私はある。もちろん、現地の言葉では睾丸や成人向エロティック漫画本の意ではないのは百も承知だ。しかし、その理解を超えてある種の強い印象を脳髄に叩き込んでくる名称なのは間違いない

もう少し上品な例をあげると「小野妹子」だ。初見でこの人物を「偉いおっさん」と看破した者はかなり少ないだろう。ほとんどの人がちっちゃい女の子を一瞬思い浮かべたはずだ。

世界観をスムーズに共有させるためのネーミング

キンタマーニ高原もエロマンガ島も小野妹子もそれぞれ意義深く尊い名前である。しかし、現代日本語圏で生活している者にとってはいらぬ「誤解」「誤印象」を引き起こしやすい名前でもある。名前はその物・場所・人物の印象を大きく左右する

いくら作者が百戦錬磨山をも揺るがす超硬派ハードボイルドダンディ主人公を描いたつもりでも、そいつの名前が「ポヨヨンぷる太」とかだと書き手の伝えたいことは読み手になかなか伝わらないであろう。名前と実態のギャップをネタにするつもりでない限り、それっぽい硬派な名前にしたほうが無難だ。

人に読ませる小説を書くにあたって重要な手順のひとつに、書き手の想定している世界観を読み手にもなるべく近い雰囲気で受け取ってもらえるよう細部を調整するという作業がある。書き手と読み手の間で同じ世界観をスムーズに共有させるため、ネーミングに気を使うというのは地味だが大切なポイントなのだ。

細かい話になるが、西洋風ファンタジーでやってしまいがちなのが国籍問題だ。イリヤ(露)とジルベール(仏)の兄弟が父アントニオ(伊)と母マリー(英)の下ですくすく育ったりしている国際色豊かな作品はけっこう多い。そういう世界設定なら問題ないが、その国や土地の文化に統一感を出したい場合は、ネタ元に設定する言語は一つか二つに絞ったほうがスマートになる。

そういう時に便利なのが、一般的な単語・名詞を色々な言語で翻訳しているネーミング辞典。例えばこの世界の言語はドイツ語をベースにしようと決めたとき、これがあればいろいろな物・事のドイツ語名がすぐに見つかる。土地の名前や必殺技名なども考えやすくなる。私は学研から出ている八カ国語対応の『ヒット商品をつくるネーミング辞典』を愛用しているが、今は人物名やファンタジージャンルに特化した創作家専用の同種の辞典がいろいろ出ている。自分の書きたいジャンルに合わせて一、二冊持っているとけっこう役立つので、余裕があれば買っておこう。

名前を考えたらまずはググれ

また、キャラクターや土地の名前を考えたら、面倒でも一度それをググッておくのをおすすめする。別の有名キャラクターとカブっていたり、違う意味のある言葉だったりするかもしれないからだ。
例をあげると、私が昔関わった成人向けエロティックゲームの企画書でヒロインの一人の名前が「月代(つきよ)」となっていた事がある。一見美しい名だが、この単語は「月代(さかやき)」とも読み、ちょんまげを結っている人のあのツルツルに剃ってある頭頂部を指す名称なのである。それを知っている者にとってはこのヒロインの名前はエロティック気分を阻害する大きなノイズとなる。そういう事故を防ぐためにも、ググり作業は大切なのだ。

余談だが、同じく昔シナリオを担当したエロティックゲームで、ヒロインの名前が実母と同じという地獄の経験をしたことがある。おかんと同名のキャラクターがアレをしたりコレをしたりするシーンを大量に書かねばならず、寿命が五年は縮んだ。
エロティック系の創作の場合、キャラ名が読者の母ちゃんや婆ちゃん、父ちゃんや爺ちゃんや姉ちゃん兄ちゃん等とカブるのは出来る限り避けたほうがよいと個人的には考えている。「スケベと親類」は基本的に相性が悪い。なので、あまり一般的でない変わった名前をつけるほうが、このジャンルにおいては「思いやり」になるであろう。

ネーミングが重要なのは作中だけではない。作品タイトル、そして作者の名前も大切だ。一時、主にライトノベルのタイトルがやたらと長いと揶揄の対象になったが、あれは実は現代事情に即した非常に合理的な選択であると私は思っている。なぜなら、タイトルでググッたときに他の作品や事象が引っかかりにくいからだ

タイトルとペンネームのSEO対策

SEO対策という言葉がある。簡単に言うと「ググッてトップに出やすくするための対策」だ。仮に諸君が本を出版し、これは現代の小説を代表する傑作だからとそのままズバリ『小説』というタイトルを付けたとする。するとAmazonの販売ページや書評等にはGoogleをGooooooooo(中略)oooooooogleくらいまでクリックしないと辿り着かず、世の中そんなに暇人は多くないので当然途中で諦められてしまい、著作の情報も届けられなければ通販もされず、初版で絶版になり、儲けは減る。出版社がよっぽど宣伝に力を入れてくれるかでっかい賞でも獲らない限り、平凡な一般名詞タイトルがGoogleの1ページ目に上がってくる確率はとても低いのだ。

ペンネームも同じく。検索に引っかかりたいと思うならよく聞く名前・言葉は使わないほうが得策である。タイトルとペンネームも考えついたら一回ググり、強力な競合がいないか、トップページに出やすそうか等のSEO対策をしよう。こういうチマチマした作業が明日のメイクマネーに繋がるのだ。銭は細部に宿る。

最後に、ネーミングセンスで世界を変えた名作小説を紹介したい。1984年に出版されたウィリアム・ギブスン著『ニューロマンサー』。今では様々なシーンでカジュアルに使われている「サイバースペース Cyberspace」という言葉は、実はこのSF小説から生まれたのだ。「電脳空間」という訳語もこの本が最初。現実世界にもその世界観を拡張させた筆致は今読んでもなお刺激的。電脳空間にVRゲームやバ美肉おじさん(バーチャル美少女受肉おじさん)が跋扈する2018年のいま、改めて読んでみたいサイバーパンクの金字塔である

(了)

(タイトルカット:16号

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