小説レビュー review

『ここは退屈迎えに来て』

もう来ない「迎え」

木村 綾子

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今年のお正月も田舎に帰って過ごした。大学進学を機に上京したのが19歳になる年だったから、19年同じことを繰り返していることになる。
けれど結局、帰省したところで家族以外だれとも会うことはなかった。もう十年以上も、旧友とは連絡を取っていない。

上京してすぐ、学業と並行して雑誌モデルの仕事をはじめた私は、彼女たちにとってすぐに“異質”の存在となった。私が田舎に持ち帰る“東京”は華やかでなければならなかったし、置かれた環境への戸惑いや将来への不安を滲ませたとしても、それにすらうっとりとしたまなざしでもって、続く言葉を求められた。一ヶ月コーディネート特集のために仕上げられた物語は、そのまま私の生活になっていた。いつだったかウケるかと思って、雑誌に掲載された部屋が実はスタイリストの手によるものだったと話したら、逆にひどくがっかりされて場がシラけた。そんなことよりも、有名人のだれと仲がいいのかとか、週刊誌やワイドショーが伝える芸能人のスキャンダルの真相を知っているか、というようなものにこそ、私の価値は試されているのだと悟った。
求められる話題だけを提供するのは楽だった。けれどその時間は私に心地の良さを感じさせはしなかった。
居場所としての田舎を諦めた頃には、すっかり誘いも届かなくなっていた。はっきりとしたきっかけがあったわけではない。ある年の同窓会に参加しなかったら、そのままなんとなく疎遠になっていっただけだ。年齢的に、彼女たちももはや私の持ち帰る“東京”を必要としなくなっていたのかもしれない。

山内マリコのデビュー作『ここは退屈迎えに来て』が刊行されたのは、2012年のことだ。1980年富山県生まれの著者は、大阪芸術大学映像学科を卒業後、京都でライターとして活動。東京へ移り、2008年に「女による女のためのR-18文学賞」読者賞受賞をきっかけに小説家に転向した。
受賞作「十六歳はセックスの齢」を含む連作短編集には、地方都市に暮らす8人の女の、どこまでも続く日常に倦んだ心性が描かれている。刊行時には、“ロードサイド小説”や“地方ガール小説”とも呼ばれ、話題を集めた。今年には映画化されることも決まっている。
10年間の東京暮らしののち、地元に戻ったフリーライターのまなざしの先に映る、旧友のいま。20代後半に差し掛かったスタバ店員ふたりの婚活。名言を唱えることで“あらまほしき自分”との乖離を慰める、同性愛者のかなしき恋。内心ではバカにしている男と寝続ける、コンビニバイトの惰性……。章を追うごとに時間はさかのぼり、最終章では、十六歳で処女を喪失してやろうと意気込む女子高校生の、持て余した性が描かれる。
狭い世界での暮らしに息苦しさを感じながら、ここではないどこかにこそ自分のほんとうの居場所があるはずだと信じ、“迎え”を求める姿は共通している。と同時に、著者はあるインタビューでこう語ってもいる。

この小説には恋愛やセックスも出てきますが、男性との関係というよりは”女の子同士の友情を描きたい”という一心で書いた小説なんです。(レンザブロー

そうか。「共感せずにはいられない」という感想の多い本作であるのに、だから私はこんなにも疎外感にさいなまれてしまうのかと気づく。
物語の中には、私が失った場所と人間関係があった。あの頃、ちゃんと自分を見せていれば、彼女たちも見せてくれたかもしれない姿や本音があった。
考えてみれば、当時彼女たちに何があり、何を思いながら暮らしていたのかを私はほとんど聞いていなかった。けれどそういう会話だって日常交わされていたはずなのだ。そして悩み、解決策を見出し、しばらく経てば思い出して懐かしむことのできる物語として、共有してきたのだろう。そこに私がいなかっただけで。
自分は「異質」だとか、持ち帰る“東京”は華やかでなければならないだとか決め込んで、勝手に田舎を諦めて、どれほど傲慢だったのか。
諦めた? 違う。嫌気がさして捨てたのではなかったか。
疎外感をかたちづくる皮を、むいてむいて、芯までむいて露わになるのは田舎を捨てたあの日の感情。それは、選民意識から来る優越感だった。

『ここは退屈迎えに来て』の物語に、旧友の姿を重ねて耳を澄ませてみる。そんなことをしなくたってまた会えるすべはあるのに、こんなにも時間が経ってしまったことに怖気づいて、身動きがとれない。
もっと早くに読めていれば、そして気づいていれば。とか言ったところで過去からの「迎え」が来ることなどないことくらい、もう分かりきっている。

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