小説レビュー review

スタンダール『赤と黒』(上)

189年前から読まれ続ける不倫小説

monokaki編集部

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1月8日(火)

2019年、あけましておめでとうございます! monokaki編集長の有田です。
昨年まで、月末はいつも「Editor’s Letter」という編集後記を連載していたのですが、今年は少し趣向を変えて、新連載「いまさら読む名作読書日記」を始めます。

2018年最後のEditor’s Letter「アマチュア作家にいちばん足りないもの」でインプットの大切さについて書いたら、大きな反響がありました。が、これだけ読者さんに「読め読め」言っている当のmonokaki編集部がちゃんと「読んで」いるのかというと、好きなジャンルや作家に偏ったインプットをしているのがほとんど実情でして。

これはよくない、ということで、今年は編集部の有田と碇本が、月替わりでいまさら「読んでない」なんて恥ずかしくて言えない世界の名著を読んでいきたいと思います。ハッシュタグは #いまさら読む名作。皆さんもこれを機に、monokaki編集部と一緒に名作を(いまさら)読んでみませんか?

1月10日(木)

編集部員・碇本さんと協議の結果、初回の課題図書はスタンダール『赤と黒』に決定しました。1月にわたしが上巻、2月は碇本さんが下巻を読みます。スタンダールとは、大学時代にとっていた文学のゼミで習って以来の再会。刊行当時の書籍に”To the happy few(幸福な少数の読者へ)” という文言が付記されていた、というエピソードをいまだ印象的に覚えています。

会社のデスクに上・下巻を置いていたら、通りががった編集マツダが気になったようで手に取り、裏表紙のあらすじを読み上げ、「僧侶になって出世したいという野心を抱いていたジュリヤンは、たまたま町長レーナル家の家庭教師になり、純真な夫人を誘惑してしまう……たまたま誘惑!? たまたま誘惑するってある!? そんなことある!?」と、激しくツッコミを入れられました。そんなことあるのか、これから読んでいきたいと思います。

1月12日(土):第一章 小都会

年明けて初めて、丸一日何の予定もない日だったので、いそいそとページを繰る。実は冒頭の1・2ページを移動の電車で読もうとして、世界観に入っていけず2回ほど挫折しました……。19世紀(1830年代)のフランスが舞台、といわれてもなかなかぴんと来ませんが、主人公のジュリヤンが登場してキャラがわかってくるとおもしろくなってくるので、これから読む方は40ページくらいまでは頑張って一気に読んでください。ジュリヤン、美少年だし。 (その前からもうおもしろかったよ? という方はすばらしい感性の持ち主ですので、そのままがんがん読み進めてください!)

年上だけど世間ずれしていないレーナル夫人は、邸にやってきた初対面のジュリヤンの「いたいけさ」にまずは心を打たれます。ジュリヤンはジュリヤンで、初めて接する上流社会に「こいつら何なの……」みたいな感じで結構ムカついてて、軽くレーナル夫人というかレーナル一家を見下しモード。「まぁでも美人ではあるんだよな……」と、ぎくしゃくしながらも次第に惹かれ合う二人。

1月16日(水):第九章 田舎の一夜

基本的な登場人物の関係を押さえられたので、移動中の電車などスキマ時間でも読めるようになってきました。ジュリヤンはついに「今日こそレーナル夫人の手を握るぞ、むりならしぬ」みたいな決意を固めた模様。冒頭のマツダの疑問に戻ると、たまたまではなく、一大決心の上での誘惑でした!

十時が鳴り出すと同時に、やってのけよう。一日じゅう、今夜やろうときめていたじゃないか。でなけりゃ、部屋にひき返して、ピストルで頭をぶち抜くんだ

極端! ジュリヤン頑張って!! ちなみに念押しですけど、これ手つなぎイベントに対する気合いですからね
カルチャーギャップからくる見栄と侮りの狭間を行きつ戻りつする二人の様子に、恋愛ってやっぱり相手に対する一種の同情心がないと始まらないのかなぁと思ったりします。あと家庭教師先のお母さんと実は……というテンプレって200年前からあるんだ……っていうのも結構びっくりだよね。

家庭教師は昼間は子どもたちの相手をしているのですが、日が暮れるとレーナル夫人と庭で夕涼みしながらまったりお喋りに興じてたりして、ちょっといいなぁその仕事うらやましい。その間夫のレーナル町長はというと、政治やら実業やらの「男の世界」でバリバリやっているわけで、対する文系インテリのジュリヤンは夕涼みとお喋りの「女の世界」に近い場所にいるという構図がたいへんクリアです。

1月20日(日):第二十二章 一八三〇年の行動のしかた

私事ですが、今週末は群馬県は嬬恋にスノボをしに来ています。昨日滑りすぎて全身バキバキなので、今日は大人しくホテルのロビーで読書。
晴れて結ばれたジュリヤンとレーナル夫人ですが、早速というか不倫がバレそうになって隠蔽工作に必死です。そしてこの辺りから話もがぜんおもしろくなってくる! 以前に文春の荒俣さんが、『小説講座 売れる作家の全技術』の中で「主人公を困らせれば困らせるほど小説はおもしろくなる」という話があったと紹介されてましたが、まさしく仰る通り。

レーナル夫人の意外に肝の据わった一面も出てきたりして、ちょっと好感度が上がります。レーナル氏は町長という社会的地位のある男性ですが、レーナル夫人は将来伯母の財産を継ぐ予定があり、経済的に完全に夫に依存しているわけではないのも強気のポイント。「何かあったときのために女も仕事をしていた方がいい」というのは21世紀の知恵ですが、19世紀においては実家の太さが自立の重要ポイントだとよくわかります。

1月24日(木):第二十四章 首都

レーナル夫人の未来の財産パワーとかジュリヤンの舌先三寸を駆使して不倫を隠し通そうとした二人ですが、それも早々に限界が見え始め、いろいろあってジュリヤンはレーナル家を出、州都ブザンソンの神学校に入学することになります。上京当日、最初に出会った都会の女を秒で好きになるジュリヤン。えっレーナル夫人かわいそう

そのまま突入した神学校編では、友達ができたり徐々に頭角を現すのかなーと思いきや、相変わらず周りをバカにして見下してるジュリヤンは教師からも生徒からも嫌われ、当然友達もできません。ここの描写がすごいので引用します。

「きみの将来は困難が多いことだろう。きみのなかには、どこかこう俗人に反感を起こさせるものがある。嫉妬や中傷がきみにはつきまとうだろう。神のご意志でどこに行ったにしても、きみは同僚からかならず憎しみの目をもって見られるだろう。同僚が好意をもっているようなふりをしたら、それはもっと確実にきみを裏切るためなのだ」

……って神学校の校長先生に言われるんですよ。えっジュリヤンまじでめっちゃかわいそう……。こんなこと言われたら二度と立ち直れなくないですか……? まぁたしかにジュリヤンはちょっと性格悪いし鼻持ちならないところもあるけど、そこまで言うことなくない……? と、360ページを超えた段階にして初めて、主人公に感情移入してしまいます。つら! 名作の心のえぐり方すごい。各位、かわいい動物の動画を観るなど、何らかの方法で傷ついた心を慰めてから、続きに向かってください。

1月28日(月) :第三十章 野心家

しかし転んでもただでは起きないのがわれらが主人公。人望はなくとも運と実力はあるジュリヤンは、ひょんなことから偉い人の推薦を受け、パリに職を得ます。遂に花の都に進出! ということで、出発の前に、1年2か月ぶりにいきなり深夜にレーナル夫人の部屋に夜這いを仕掛けます。いやそういうところだぞジュリヤン……。しかも思いを遂げたら日が昇る前にさっさと帰ればいいものを、「もう明るくなってきちゃったから一日部屋に居させて! 夜暗くなってから帰るわ!」と宣言するほど気が大きくなってしまいます。いや本当そういうところだと思うよジュリヤン。神学校ではぶられたことから少しは学んで!

果たして彼はこんなノリでパリに行って大丈夫なのか? ここで上巻が終わります。
気になる下巻の内容は……!? 2月末、碇本さんによる更新をお待ちください。

そして、本記事で少しでも『赤と黒』に興味を持った方、本編はもっともっとおもしろいので、ぜひご自身でも読んで感想をお聞かせください。もちろん、「当然読んだことあるよ!」という方の再読感想も大歓迎です! ハッシュタグは #いまさら読む名作。皆さまからの投稿、お待ちしております。

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