小説レビュー review
2019.05.30

『万葉集 ビギナーズ・クラシックス』

1,500年前のアルファツイッタラー

monokaki編集部

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5月1日(金)

令和あけましておめでとうございます、monokaki編集長の有田です。いやー、令和ですね! そのすてきな字面音ヅラで決定時から比較的すんなり受け入れられている令和ちゃん、迎えた瞬間皆さんは何をしていましたか?
わたしは令和元年元日がこんな大晦日~お正月的なイベントムードになるなんて予想していなくて、部屋の断捨離と模様替えに勤しんでいました。模様替えの真っ最中だったのでテレビすらテレビ線につないでいなくて、稀代の譲位・改元関連イベントも、Twitterのタイムライン上にちらちら流れているものを眺めたのみ……
完全に乗り遅れ感がありますが、今月の「いまさら読む名作」は、元号の元ネタとして脚光を浴びている『万葉集』を読んでいきたいと思います。

5月2日(土): はじめに

万葉集はさまざまな出版社から刊行されていますが、今回は角川文庫『万葉集 ビギナーズ・クラシック』をセレクト。このシリーズは表紙もかわいく、コラム的に挟まれる解説もわかりやすく、「いまさら読む名作」というコンセプトにぴったりです。約140首が解説つきで掲載されています。
作者は歴史の授業で習ったような有名な人物が中心ですが、実は「詠み人知らず」の歌もたくさん収録されているんですよね。万葉集、つまりはTwitterみたいなものなのでは……!? 返歌って引用RTみたいなものだし(?)。1,500年前のアルファツイッタラーの皆さん……と思いながら本編に進みます。

ちなみに本連載は読書「日記」でもあるので、そのときどきのタイムリーな出来事も記していきたいのですが、令和初のTwitter炎上は「カルチャー顔」についての記事でした。過去に「ちょっと時代観の遅れた作家」にならないために」という記事内でも言及しましたが、こういった「新しい倫理観」は物書きにとっての必須教養&スキルになりつつあります。対処方法としては「とにかくいろんな本を読んだりニュースを見たりして知識教養をアップデートしていく」しかないのですが、本連載もその一助になれば幸いです。

5月6日(月): 明日香風――采女の袖吹きかへす

GW最終日、流通センターで行われている文学フリマ東京へ行ってきました。文フリに行くと毎回思うことですが、「こんなに大勢の人が創作してるのか」とリアルに、視覚的に捉えられる場ってなかなか貴重です。11月に開催される秋の文フリではmonokakiでも何か出したいと思っているので、「文フリって聞いたことあるけど行ったことないな」という方はぜひ遊びに来てくださいね。

解説が丁寧でさくさく読める『万葉集』、前半は自然を詠んだものが多いのですが、章が進むにつれ個人の心情にフォーカスがうつるように感じます。中でも、思わず笑ってしまった歌があったので最初に紹介します。藤原鎌足が、安見児(やすみこ)ちゃんという高嶺の花的女性を妻にしたときの、喜びの一首です。

我れはもや 安見児得たり 皆人の 得難にすといふ 安見児得たり
(九五 藤原鎌足)

何てダイレクトな表現なんだ……! 「おれはついに落としたぞやすみこを、誰にも落とせないんじゃない?って言われてたやすみこを!」ということですよね? シンプルな韻から喜びが伝わってきます。
「和歌」=「技巧を凝らしたもの」というイメージがどうしてもありますが、こういう「テンション上がったわ……」という瞬間を切れ味よく詠むのもまた和歌なんだなーと、意外性も込みで心に残る歌でした。

5月15日(水): 酒を讃める歌――験なきものを思はずは

「ダイレクトすぎて親近感わく」シリーズ、その2です。章タイトルそのままの、大伴旅人による連作。テーマは一言で言うと「酒はいいぞ」ということなんですが、表現がいちいち素晴らしいので、幾つか訳文を引用します。

甲斐のない物思いなどをするよりは、一杯の濁酒を飲むべきであるらしい。

昔の中国の七賢人たちも、欲しがったのは酒であるらしい。

いかにも賢ぶって物を言うよりは、酒を飲んで酔い泣きをする方がまさっているらしい。

何とも言いようもなくどうしようもなく最高に貴いものは酒であるらしい。

中途半端に人間であるよりも酒壺になってしまいたいよ。そうすれば、たっぷりと酒に浸ることができるだろう。

ああ、みっともないよ。りこうぶって酒を飲まない人をよく見ると猿に似ているよ。

りこうぶって酒を飲まない人をよく見ると、猿に似ているよ……。キャッチーすぎる大伴旅人の表現力に嫉妬。ちなみにこの時代、清酒は高級品で、濁り酒が主流だったようです。というミニ知識も寸評に書かれていました。

そしてこの後に続く章「手枕」「亡妻挽歌」では、妻を病気で喪った大伴旅人のせつない心情も収録されています。同時に読むことで、前掲の「酒を讃める歌」からも、また違った趣を感じ取れました。

我妹子が 見し鞆の浦の むろの木は 常世にあれど 見し人ぞなき
(四四六 大伴旅人)

5月24日(金): 梅花の宴――正月立ち春の来らば

今日は久しぶりに「新人賞の懐」の更新がありました。賞金なし・〆切なし・下読みなし、持ち込みに近い形態で新人賞を常時開催しているメフィスト賞の裏側です。小説を書いている方だったら、絶対に刺さる創作tipsも盛りだくさんなので、ぜひご一読ください。

そして、万葉集の方はやっとたどり着きました、例の章に。「令和」のもととなった「梅花の宴」。この宴会の幹事は、実は前出の大伴旅人です。

「……時に、初春の令月にして、気淑く風和ぐ。梅は鏡前の粉を披く、蘭は珮後(はいご)の香を薫らす。」
(……時は良き新春正月、外気は快く風は和らいで、梅は佳人の鏡台の白粉のように白く咲き、蘭は香袋のように香っている。)

ここまでは皆さん、ニュースなどでよく目にしたかと思います。けれど、後続の節ってご存知でしょうか?

「……もし翰苑(かんえん)にあらずは、何をもちてか情を攄(の)べむ……」
(……もし、文筆によらなければ、何をもって心中を述べようか……)

……と、続くのですね。この文、うつくしい春の日、梅の花の咲く新しい季節の訪れを寿ぐとともに、物書き賛歌でもあるんじゃん!
『万葉集 ビギナーズ・クラシックス』では、残念ながらここまでしか序文が収録されていないのですが、続きが気になって検索してみました。曰く、

「詩に落梅の篇を紀(しる)す。古と今とそれ何そ異ならむ。」
(漢詩にも多くの梅の詩がある、昔と今で何の違いがあろうか。)

「昔と今で何の違いがあろうか」と天平2年(730年)の人が書いたものを、令和元年(2019年)に読むスケール感に、頭がくらくらしてきます。

5月30日(木)

実は今回の記事、ほかにも魅力的な歌が多すぎて、当初はものすごーく長い記事になっていたのです。途中で「これ書いても書いても終わらないんじゃ……?」となり、思い切って半分ほど削りました。そのくらい面白いです、『万葉集』。ぜひ、ご自身で手に取って頁を繰ってみてください。

そして来月は、奈良時代からこのままずーっと時を下り、平安時代の日本を舞台にした氷室冴子さんの『なんて素敵にジャパネスク』を読んでいきたいと思います。シリーズ累計800万部!ということで、「学生の頃読んでた!」という方も多いシリーズではないでしょうか?
『なんて素敵にジャパネスク』に関する思い出や感想など、お持ちの方はぜひ #いまさら読む名作 でお聞かせください。もちろん、初読の人も大歓迎! 日本における「アラサー独女ラブコメ」の走りともいえるエンタメの大傑作、一緒に読んでいきませんか?

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